聞いて欲しいことはたくさんあるけどとりあえず、大好き!


*女の子≠プロデューサー



「名前さん」
「……東雲さん!?今、まだお店の」
「神谷が少し話してきたらどうかと言ってきたので」



一人ぼっちで訪れたこのカフェはわたしの大のお気に入りの場所だ。開店当初から通い続けているのもあって、店員さんたちに顔まで覚えてもらえるくらいには常連客となっている。程なくして、アイドルという道にも進む店員さんたちにはそれはもう驚いたけれど。
目の前に静かに座り込んだのは、いつも洋菓子作りを担当している東雲さんという方だ。初めての来店の時、少しソワソワしていたわたしの心を落ち着かせてくれた。優しく、柔らかな雰囲気がなんだか自分の部屋にいるみたいだった。でも、それも最初の方だけで、何度か来店を重ねる内に心を騒がせるのは彼の存在であることに気づく。カフェに来るのに、まるでデートでもするかのような恰好をして、店に入ったらすぐに東雲さんの姿を探す。といっても、今日みたいに彼の方から出てきてもらわなければ、わたしは姿を見ることすらできないのだけれど。
ケーキを運んできてくれた咲ちゃんは注文していないケーキもテーブルに並べたので、口を開こうとすると東雲さんがわたしに向かって口を閉じるような仕草をする。ペコリ、と礼をしてテーブルから去って行く咲ちゃんの制服のフリルが可愛く揺れていた。東雲さんって、どんな女の子が好みなんだろうか。可愛らしい子、それとも綺麗な子。彼の表情を伺おうと、咲ちゃんから東雲さんへと視線を戻す。ふっと笑った口元のホクロがとてもセクシーで、思わずケーキに視線をそのまま落とした。二つ並んだケーキの片方は、わたしがいつもお気に入りで注文する物だったが、もう一つはというと、店頭に並んでいるところを見たことのないケーキだった。



「名前さんは、私たちのケーキの味をよく知っている方ですから、ぜひ味見を」
「……そ、そんな!わたしなんて」
「どうぞ。試作したものです。初めて食べてもらうのは名前さんに、と思っていました。特別ですよ」



初めて食べてもらう。特別。その言葉に別の深い意味を感じたのは、期待を抱いてしまうからだ。でも、東雲さんは常連の人だったら、きっとどの人でも良かったのだと思う。試作している時に、たまたま客として現れたのがわたしだっただけ、だろう。東雲さんはわたしがこのお店に通う理由は、洋菓子が好きだと思っているに違いない。最初は純粋にその気持ちだけだったけれど、今は別の感情も持ち合わせているのだ。
飲み物を運んできてくれたのは卯月くんと咲ちゃんだ。二人と目が合うと、意味深にニッコリとされた。テーブルに飲み物を置いた彼らは、少し相談があるからお願いしますとわたしの両手を引く。ごゆるりと、と言った東雲さんは相変わらず席に座ったままだ。店員さんではなく、客を呼んだのにはどんな意味があるのだろうか。



「名前ちゃん」
「名前!」
「は、はい」
「いつもありがと!」
「サキちゃんと俺がずっと思っていたことがあるので、少し聞いてもいいですか?」
「なんでしょう?」
「……名前、そういちろうのこと、スキでしょ?」



三人で東雲さんから少し離れたところに輪を作ると、咲ちゃんと卯月くんが楽しそうに質問を投げかけてきた。それはもう図星で、わたしは途端に熱くなる顔や耳を隠そうと必死になる。二人にはもうバレているようだから諦めるけれど、東雲さんには知られるわけにはいかないのだ。



「当たり、ですね!」
「ロールとずっと話してたの」
「し、東雲さんには言わないでください!」
「もっちろん。だから、今から名前が言っちゃお〜」
「サキちゃんと俺が背中押しますよ」



くるりと向きを変えられたわたしの目線の先には、東雲さんの背中がある。彼にはどうやらバレていないようだけれど、咲ちゃんと卯月くんには見透かされていたらしい。さすが客のことをよく見ているなあと普段なら感心するところ。でも、今はそれどころじゃない。胸の中から溢れ出しそうなこの想いを伝えるカウントダウンが静かに始まったのだ。心の準備もまだできていないのに、身体は少しずつ東雲さんに近づいている。もう、覚悟を決めて素直に伝えるしか選択肢は残されていないのだ。



Title:誰そ彼
Image song:恋色エナジー/中野有香
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