すぐに答えを知りたがるのは君の悪い癖だ


*女の子≠プロデューサー



駅構内を出たところで、インターネットの315プロの記事を読んでいた名前は顔を上げた。帽子を深く被って、目立ちがちな金髪を隠した類が手をヒラヒラとさせながら現れる。彼らは大学の同級生だ。同じ学部に所属していたものの、校種が違うため、講義は度々被るくらいだった。それがどうしてこんなに仲良くなったかというと、彼らの行くこととなった教育実習校が近く、帰りによく待ち合わせをして話をしたり、夕飯を一緒にしていたからである。名前は小学校、類は高校だった。顔の整っている類は女子高生からとても人気があったらしい。面白い人だからと男子高生にも。その話を聞いて、名前はとても納得がいった。なぜなら、彼は教育実習生というよりはむしろ近所のお兄さんとして、また友達のように高校生の目には映っていることが安易に予想できたからだ。かくいう彼女も小学生たちから教師のようには接されていなかったが。



「Elementary school、どう?」
「……学校のことなら類も知ってるでしょ」
「名前ちゃんはどうかなって」
「机の上で延々と指導要領、指導案に向かっていた時とは大違いだよ。子どもって、本当に不思議な生き物だね」



鞄の中の資料を名前は類に見えるように開く。何枚も書き崩した指導案が大量に重ねられており、類は思わずWowと声を上げる。話の続きはdinnerをしながら、と続けた彼は彼女の腕を掴んで歩き出す。開きっぱなしになっていたブラウザの画面を閉じた名前は、類に引かれるように足を動かし始める。
類も名前も次の日は休みだ。学校という場所から解き放たれた彼女は、類に会う前に少し濃い化粧を施していた。仕事柄、子どもと触れ合う時間が一日のほぼ全てを占めている彼女は基本的に軽い化粧しかしない。それに気付いていた類は、イルミネーションの下に彼女を連れて来ると急に手を離し、手で作った写真に閉じ込める。イルミネーションの向こう側に広がる夜景も相俟って、名前がまるで何かの主役にでも抜擢されたような感じであった。
類、と名前を呼ばれ、彼はすっと彼女の隣へ戻る。目の合った二人が意味もなく、ただその時間をしばらく共有していると、突然アイドルの曲が流れ出したものだから、名前の方が一歩引いた。どうやら類のスマホが鳴ったらしい。電話なのか、メールなのか、どれかは分からないが、彼の手はポケットへと伸びる。画面を見た彼は、No problemと言って顔を上げる。そんな類の前には、目を閉じた彼女の姿がある。作り上げたはずの笑顔が類から、ふっと消える。その瞬間に、彼女の目が開く。類、わたしが呼んだからっていつも来てくれなくてもいいのよ。マスカラが滲んだ目元をティッシュでトントンと叩く名前は、笑った。それは大変自虐的なもののように、類には映る。自分が彼女に投げ掛けていた、cuteやpretty、そしてloveの意味が本当に伝わっていないことをそこで思い知らされる。



「彼女、待ってるかもよ」
「名前ちゃん!」
「……またね」



類に背中を向けた名前は、最初こそゆっくり歩いていたものの、途中から走り出す。自分が彼の特別でないことはよく知っていたが、実際目の当たりにすると酷く胸が痛んだ。あの連絡だって、恋人かどうかわからない。類の顔が緩むのを見て、これ以上の情報はシャットダウンしたいと思ったのだった。



「待って!」



逃げてしまいたい相手から彼女が本当に逃げられないのは、つい足を止めてしまうからだ。名前は僅かな期待にも縋りたくて仕方ない。もし、類が本当にこの手を取ってくれるのだったらどんなに良いことか。名前は、自分を追いかけて来る類といい加減向き合おうと心に決めて、ぐちゃぐちゃになった顔のまま、類を待つのだった。



Title:ジャべリン
Image song:待ち受けプリンス/高槻やよい、菊地真、水瀬伊織
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