☆☆☆
*女の子≠プロデューサー
「賢くん賢くん」
「分かってますよ」
「だって3周年ですよ!?精一杯のおめでとうをしたいじゃないですか」
「名前さん声が大きいです……!」
「はっ、ごめんなさい……つい」
社長もプロデューサーさんもアイドルたちも出払った事務所の中で、わたしたちは二人でルーズリーフに食べ物などの必要な物を書き込んでいた。賢くんより少し遅れてこの事務所にやってきたわたしは、彼同様に学生バイトとしてここで働かせてもらっている。事務所内の一角にある大部屋はここのところ、誰も立ち入ることなく、わたしと賢くんだけが出入りしていた。食べ物以外のリストアップされた物はほぼほぼ揃っている。それらをこの部屋に詰め込んでいた。プロデューサーさんには、この部屋はしばらく改装するから入れないことをアイドルたちに伝えてもらっている。だけど、本当は違うのだ。わたしと賢くんで極秘に進めている事に使うため、空けてもらっている。プロデューサーさんには詳しく説明していないけれど、目敏いプロデューサーさんはきっと気づいていると思う。賢くん、これはこの色の包み紙です。ユニットの色、ちゃんと合わせていきましょう。名前さん、これはどうしますか。賢くんはどう思う。ぼくはこうするのが彼ららしいと思いますよ。そうしましょう、さすが賢くん。わたしたちだけの会話が大部屋で繰り広げられる。もう時間はあまり残されていないのだ。限られた時間の中で、彼らに気付かれないようにこっそりこっそり準備をして。そして、彼らにはまた新しいスタートになりますように。オレンジ色で包装した箱を三つひとまとめにし、付箋にドラスタと書いて貼り付ける。賢くんも同じように青色で包装した箱を三つ纏めると、別の色の付箋にBeitと大きく綴る。その作業を繰り返して行って、全部を終えた後に大きな布を持ってきて、それら全てを隠すように包む。よし、と手を腰に当てたわたしは近くにあった椅子に一旦腰を下ろした。
「賢くんあとは」
「飾り付けですね」
「食べ物系は当日じゃないと無理ですね」
「そこはプロデューサーさんにも手伝ってもらった方がいいような気もしますけど……」
「えー!ここまで来たら二人でなんとかできませんかね!?」
机の上にだらしなく腕を伸ばしたわたしは、賢くんの方を見やる。彼はうーんと唸ったまま、なかなか返事をしてくれない。当日のことはグダグダと考えていてもしょうがないと思ったわたしは、勢いよく立ち上がる。パイプ椅子がガタンと倒れて、賢くんは肩を震わせた。
「やれるところまでやりましょう!まずは飾り付けを」
「そうですね。名前さんが言う通りです」
「賢くんがしっかり計画立ててくれたからですよ。さすがです」
「いえいえ、そんな!」
二人で褒め合いながらも、手は休まずに動かしていく。それぞれのユニットをモチーフにした飾りの案も、随分前から賢くんと一緒になって考えてきた物だ。例えば、ドラスタだったら星に、それぞれのアイドルたちに関連した飾りを用意した。ちなみにわたしが今作っているのは飛行機だ。このイメージは誰とは言わないけれど、きっと誰もが分かるはず。賢くんはというと、可愛らしいトリコロールカラーの飾りを作っている。その手元に数種類の音楽記号も見える。ギターやドラムセットもあった。わたしのところには、ラーメンだったり扇や王冠、お城、教科書、絆創膏、サッカーボールに、ドーナツやパンケーキ。色紙で作った物もあれば、実物を集めてきた物もある。この眼鏡なんて賢くんは一体どこから持ってきたのだろうか。
「予定していた分は作り終わりそうですよね?」
「そうですね!今日中には全て出来上がりそうです。あとは実際の飾り付けなんですけど、ぼくが少し考えてみたものがあるんです」
配置図を取り出した賢くんは、ここにこれ、と指差していく。賢くんも家に帰ってからいろいろとこの計画を進めてくれたのだと思うと、わたしは嬉しくて堪らなかった。わたしも賢くんも心からお祝いしたい気持ちでいっぱいなのだ。賢くんの配置図に、椅子やテーブルの位置も書き加えながら、小物の制作は続く。
事務所に入ってすぐにアイドルたちの目に入るように、大きなホワイトボードがある。そのホワイトボードに色がどんどん増え、お仕事もたくさん書き込まれ、今ではプロデューサーさんが書き込むのが追いつかなくなっていて、わたしが手伝ったりしたこともある。プロデューサーさんから貰ったメモ用紙を見ながら、お仕事を書き込んでいくのだけど、後日それを見たアイドルたちの横顔は本当にキラキラしている。もうプロデューサーさんから連絡は貰っているはずなのに、はっきりと書かれた文字に対して嬉しそうにするのだ。ステージの上でなくとも、事務所にいる彼らは眩しい。年齢層は広いし、前職等アイドルたちは背景が十人十色。誰もが様々な物を抱え、ここに集まっている。見ず知らずの人とユニットを組んだり、もともと共通点があった上でユニットを組んだり。わたしは彼らの全てを知っているわけではないけれど、賢くんと共にアイドルたちを支えられる人でありたいと思っている。今いるアイドルたちと向き合って、言葉を交わして、もっともっと彼らのことを知っていきたい。
「名前さん、顔がにやけてますよ」
「そういう賢くんだって、顔に締まりがないです。ふふ」
ボールペンやマーカーで印を付けていけば、賢くんの持ってきた紙はだんだんとカラフルになっていく。椅子は幾つ必要で、こういう風に並べようとか、部屋の一番奥にはちょっとしたスペースを作って、挨拶でもできるようにしようとか。膨らむアイデアは止まらない。
「この小さなステージの裏に、さっき布を被せた山を置いておけば、違和感なさそうじゃないですか?」
「ステージで何をするかもはっきりしないので、突然裏に回られたらどうします?」
「いきなり何か始めるの好きですからね……」
「まあでも、あんまり気にしないかもしれません!それでいきましょう」
「ところでこれは」
賢くんがテーブルの下から持ち出したのは、小分けされた箱だ。何個もある箱にはアイドルの名前がそれぞれ書かれてあり、わたしは一瞬にしてそれがファンレターであることに気づく。世界中のファンがこの事務所のアイドルたちに手紙を送ってくれていると思うと胸が熱くなる。バイトの身でありながらもいちファンであるので、気持ちがとてもよくわかる。きっと3周年の日はファンの方もそれぞれの形で祝ってくれるのだろう。そのうちの一つの形がファンレターだ。
「これもわたしたちのプレゼントと一緒に渡しましょう」
「いつもみたいに喜ぶ顔が目に浮かびますね!」
「あれ!?これは賢くんとわたし宛じゃないですか?」
「そうなんですよ。しかも46通あって、差出人が」
差出人の名前を見て、わたしはびっくりした。どの手紙を見てもよく知った名前で、わたしたちが仕掛けようとしていたサプライズよりも先制されてしまっていた。思わず涙が込み上げてきそうになったが、これはますます3周年のお祝いに気合いが入る。賢くんをちらりと見ると、バッチリと目が合った。
「決行日当日は、帰ってきたみんなをすぐにこの部屋へ連行です!」
「名前さん」
「なんでしょう?」
「ぼくも3周年を迎えるにあたって、名前さんにはとても感謝しています」
「わたしもです。賢くんがいたから一緒に頑張れました」
互いに笑みを交わし合うわたしたちは3周年の日に向けて着々と準備を進めていく。さあ、もう少しで計画も動き出す。まずはアニバーサリーライブを終えたアイドルたちがこの事務所に帰ってくるのを、待つばかりだ。
アニバーサリーライブは盛況で、幕を下ろしてもずっとファンの声と拍手が聞こえ続けていた。開幕前のアナウンスを済ませたわたしと賢くんは、関係者席から彼らを見守っていたが、何度もライブを重ねる度に進化を遂げるアイドルたちには驚かされることばかりだ。本当はライブの最後まで撤収作業をしなければならないのだが、事情を知った人たちがほんのひとあし先にわたしたちを事務所へ返してくれた。
注文していた料理もちょうどいいくらいに配達されてくるだろう。タクシーに乗り込んだわたしと賢くんは車内で最終確認をしていた。
「この時間には大体到着しますよね?」
「プロデューサーさんに言って、部屋の誘導をしてもらいましょう。メールしておきますね」
「賢くん、わたしまだライブの熱が冷めません。夢の向こうに行ったっきりになってますよ」
「ぼくもです。毎回毎回長い余韻に浸りますよね」
「そうなんですよねー!わかります!」
タクシーを降りたわたしは事務所の扉を開ける。鍵を解除して、ノブをゆっくり回して。賢くんは近くにあった電気のスイッチにタッチする。当たり前の行為が、なんだかライブのおかげで特別なものに思えた。
立ち入り禁止、の薄っぺらい紙を剥がしたわたしは椅子やテーブルを整え始める。賢くんはちょうどやって来た食べ物の受け取りをしてくれた。アイドルたちは今日、どんな顔をしてこの事務所に帰ってくるのだろうか。どんな気持ちで、新たな道を走って行くのだろうか。
賢くんが並べてくれた料理は奮発した物だ。お腹が鳴ってしまって、彼に大笑いされたが、アイドルたちが帰ってくる前にわたしが手を付けるなんて許されない。ピロン、と賢くんのスマホが音を立てる。
「プロデューサーさんからです!」
「なんて?」
「もうすぐ到着します、って」
「部屋の前で待っておきましょう!」
プロデューサーさんが誘導役を引き受けてくれたので、わたしたちは迎える側だ。今日のライブの感想も伝えたいし、これからの未来のことだって、話したいことは山ほどある。
あっ、と輝さんの声がする。隣の賢くんを見れば、彼は扉を開いた。わたしは輝さんに向かって手招きをする。充実感溢れた笑顔を浮かべた彼が首を傾けた。薫さんと翼さんも彼の後ろを着いてきている。そして、その後ろには冬馬くん翔太くん北斗さんと続いている。
「315プロの皆さん!」
わたしの張り上げた声は最後尾にいたプロデューサーさんにも届いていたようで、手を振っているのが見える。賢くんと息を合わせるため、小さな掛け声を出した。せーの。
「3周年おめでとうございます!」
「翼、好きな分だけ食べられるぞ!桜庭もたくさん食べろよ」
「柏木はこれを好んでいたな。天道、言われなくても分かっている」
「わあ。輝さん薫さんありがとうございます!ふふ、二人とも仲良しですね」
「冬馬君、ほらこれー!」
「……ってこれ、海老の尻尾だけじゃねーか!翔太ー!」
「わー!北斗君!」
「冬馬、ほらエビフライ。そんなに怒らなくても、エビフライはたくさんあるからゆっくりで大丈夫だよ」
「都築さん、今日は素晴らしいご馳走がたくさんありますから、水だけとは言わないでくださいね」
「そうだね、麗さん。名前さんたちがせっかく用意してくれたものだ。もちろん頂くよ」
「みて、みのり!恭二!ボクたちの名前書いてある箱、Beitの色。中身は………あっ!カエールの服!」
「俺のは何だろう。花がいっぱい散りばめられて……?」
「これ、誰からのプレゼントだ?まさか名前さんたちからアイドル一人ひとりにあるのか」
「悠介、これ開けてみようよ!」
「……ん?両方同じ物かな?」
「色違いだ!俺と悠介で色違いのものだよ。リストバンド付けてみよう」
「享介、オレたちにピッタリだ!さすがだね」
「誠司さん!英雄さん!」
「あっ、龍。そこ下にコンセントがあるぞ、気をつけろよ」
「テーブルのグラス、肘に当てないようにな。中身まだ入ってるぞ」
「今日はいいことだらけだから大丈夫ですよー」
「龍ー!!」
「事務所みんなでワイワイするのも久しぶりな気がするでにゃんす〜」
「そうだねえ。最近はみんなそれぞれの仕事があって集まることは少なかったからね」
「こうやって一堂に会することは素晴らしいことですね。存分に楽しみましょう」
「これオレらモチーフじゃないッスか!?」
「ホントだ。楽器がいっぱいあるなー」
「四季くん、触ったらせっかくの飾りが落ちてしまいますよ」
「……すごい、オレの、ベースの色まで同じ」
「名前さんたちは細かいところまで見てくれているんだな……」
「ここでもサイコーに燃え上がってやるぜ!メシが美味しくて箸が止まらねぇぜ」
「どの料理もそれぞれの好みを把握して用意してあるように思う。流石だぜ」
「あたしの好きなデザートだー!」
「ケーキがこんなに………全部食べちゃいますね!」
「なんだかいつも通りで、紅茶を淹れてしまいそうになるよ」
「同意見です。私もついつい作る側になってしまいそうになりますけど、今日はご馳走してもらう側でしたね」
「おお、我が名を記したこの大量の密書はまさか……」
「わあー、また箱にたくさんファンレターが来てるね」
「どれどれ……?おお!これ、オオカミ載ってるぜ!」
「かのんのはっと。すっごいかわいい〜。ふわふわモコモコ!」
「ふむ。こうやって小分けしてあるが、これは名前くんたちのおかげだな」
「はざまさん、こっちに入っていたのがありますよ。うお、かわいいネコだ……」
「Wow!ミスターはざまも、ミスターやましたも、俺のもmanyだね。Wonderful!」
「こらこら漣、皿いっぱいにたい焼きそんなに取ってこなくても……」
「くはは!この皿のタイヤキも、あっちのタイヤキも全部オレ様のもんだからな!」
「……このキラキラした食べ物はなんだ?つついたら、プルプルしてるぞ……」
「一希さん、新しい作品書いたって本当ですか!?僕に読ませてくださいよ!」
「先生、ワシにも読ませてくれー!なんていったって先生の作品じゃけぇのぉ」
「……ありがとう。やっぱりおれは、涼、大吾、二人とユニットが組めて良かった」
「俺たちのデビューから、あっという間の時間だったな。ありがとな」
「3周年ということですし、今日は皆さんに海の魅力をお伝えする素晴らしい機会だと思います!」
「クリスさんはいつも通りだなー。でも僕も3周年ってことでととのったよー」
様々な会話が聞こえてくる中、名前と賢は最後にこの事務所に届けられたとっておきの物を運んできていた。部屋の外にまで聞こえるアイドルたちの楽しそうな声に耳を澄ませて、扉を開けようとした時に二人を呼び止める声がする。社長とプロデューサーである。おめでとうございます、と名前と賢が言えば、彼らは感謝の言葉を返す。そして君たちも立派な事務所の一員である、と。思わず泣いてしまいそうになった二人だったが、まだ早いと堪え、四人で扉を開けた。アイドルたちの注目が一斉に集まる。3周年おめでとうと書かれた巨大なケーキに、彼らは目を輝かせた。プロデューサーが声を上げる。
「それでは社長から」
名前と賢、そしてプロデューサーも用意していた椅子に座る。咳払いをした社長はアイドルたち、そして彼らを支える者たちへとメッセージを送る。これまでの頑張り、時には辛いことがあっても仲間と支え合う大切さ、反対に仲間と競い合うことも必要なこと、ユニットを越えた関係作り。そして辿り着いた3周年というひとつの区切り。しかし、彼らはここで立ち止まることはない。いつまでも夢を追いかけていくアイドルだ。プロデューサーたちと一緒に走って行く、315プロのアイドルだ。誇りに思って頑張って欲しい。社長の言葉が終わると、拍手が沸き起こる。ここに集う人間は皆同じ気持ちを抱いているということを示しているようだった。
「では、ケーキを切り分けたいと思います!輝さん、冬馬くんはアイドル代表としてよろしくお願いします」
輝と冬馬がアイドルたちの前に立つ。二人がそれぞれ思いを述べた後、ケーキをまずは半分にしようということで、ケーキを正面に左右からナイフを入れていくことになった。ただ切るだけでは面白くないと思った輝はそこにいる全員にある提案をした。彼らしいその提案を受け入れたアイドルたちは、輝や冬馬を囲むように場所を移動した。ぐるりと見回した輝と冬馬が、大きな声でせーの、と叫ぶ。
「We are 315!」
THE IDOLM@STER SideM
3rd Anniversary!
2017.7.17