背中に隠した気持ちの名前、向かい合ったらさあ伝えて
*女の子≠プロデューサー
翼をもがれた鳥が羽ばたける日は二度と来ないのかもしれない。鳥籠に閉じ込められて、自由を奪われる。外へ出て行くには、残った身体さえも血塗れになりながら飛び出す覚悟が必要なのだ。もう、使い物にならなくなった翼で空を翔けるのは夢の話。
鷹城くんと付き合い始めたきっかけは、なんだっただろうか。わたしも彼も互いに悪い印象は持っておらず、むしろ惹かれていたのかもしれない。気づいたらお付き合いをするようになっていた。ただ、鷹城くんにしても、わたしにしても不定期の休日で、同じオフの日というのはほぼなかった。家と仕事場の行き来で毎日が成り立っている。わたしは、鷹城くんのことがすき。クールでそつなくなんでもこなせるように見えて、様々な面で時には熱くなる。でも冷静さを全て欠くわけではない。ユニットのことを考えて行動する彼のことがすきだ。付き合っている男と女なのに、名前を呼ぶことも呼ばれることもなく、月日だけが過ぎていく。仕事終わりにベッドに倒れ込んだわたしは、傍に置いてある大きな鏡で自分と見つめ合う。会えなくて、寂しいの。すきだから、寂しいの。今すぐ触れたい、触って欲しい、心も身体も全て裸にされたい。鷹城くんになら。
実は、わたしの事務所は恋愛に関して厳しいところがある。熱愛が公に出たのなら、事務所の損害になる可能性だって否めない。恋愛禁止とまではいかないが、目立つ行動は慎むようにとのことだ。恋に溺れてしまいたい、なんて思っても檻がわたしをそうさせない。人の前で歌を歌って、踊って、これだけ好きなことをできているのに、自分の恋はそうはいかないのだ。鷹城、恭二くんは、今、どうしているかな。ベッドの端に付けている彼のグッズに触っていると、スマホの画面が急に電話へと切り替わる。
「も、もしもし」
「鷹城だけど、苗字?」
「うん……!」
「なんだか、嬉しそうだけど」
「……電話切らないでね」
「今かけたばっかなのに、すぐ切るわけないだろ」
ドラマで男の人に甘える演技をしたことを思い出しながら、スマホひとつで繋がれた先の恭二くんに話しかける。本当は、甘えるよりもわたしの心の内を吐き出してしまいたいのだけれど、彼に迷惑は掛けられないから、バレないように隠すのだ。嬉しそうな声だって、演技って気づいてくれたらいいのに。
「……名前」
「う、うそ……?」
「嘘をついているのは名前の方だ。俺に隠し事をしないでくれ」
「恭二、くん」
「調子がいいとか噂を聞いたけど、俺にはそんな風に見えない。この間の番組、ちょうどピエールとみのりさんと一緒に観たんだ。表面上だけで笑っている苗字名前じゃ、ダメだろ?アイドルなんだからな。もっと、人に頼っていい。俺もいる」
シーツの上にスマホが落ちる。画面に涙の粒が落ちていき、恭二くんからの呼び掛けがずっと続く。返事の変わりに、わたしの泣く声だけがきっと彼には聞こえていた。強がってばかりじゃ、ダメだ。時には心から甘えることも覚えなきゃ。演技ではない、本物の。恭二くんがそのきっかけをくれる。泣き始めたわたしの部屋に響き渡るのは、深夜のインターホンだった。
鳥籠の錠を壊すのは、もう一羽の鳥。その一羽に連れられるように、自由を奪われていた鳥は翼を動かす。羽ばたくことを諦めていたのは羽のせいではなく、鳥自身だった。大きく広がった翼は、美しいまま空へとはためく。夢を見ることを許された鳥は、初めて果実を啄んで、甘さを知るのだ。
Title:誰そ彼
Image song:ヴィーナスシンドローム/新田美波