綴も含め、彼の友達が男女を何人かずつ集めて、揃って動物園を訪れていた。大学生ともなれば、初めは集団であっても段々とバラけてくるものである。綴たちの集団も例外ではなかった。
気が付けば、綴は名前と二人でゆったりとペリカンの泳いでいく姿を見つめていた。ほんのりと桃色に染まったペリカンたちの列を眺めながら、名前は動画を撮っているようである。羽を広げたり、大きなくちばしを開けてみたりと自由な雰囲気は綴に劇団を思い出させた。
「皆木くん、みんなあっちに行っちゃったけど」
「苗字さんまだペリカン見てるだろ?」
「うん」
「じゃあ、ここにいる」
内心、綴はドキドキであった。この言葉によって、自分が彼女のことを好いていることがバレてしまうという危険性も含んでいたからである。今日、二人きりになろうとは思ってはいなかったのだが、ペリカンのおかげでこの状況を作ることに成功していた。さすが、桃色だけあって甘酸っぱい恋愛には強いんだなと、綴はひとり感心する。その時だった。近くにいたペリカンが水面を叩きつけるようにして、水飛沫を綴たちの方にまで散らす。驚いた名前は咄嗟に、隣にいた綴に反射的に抱きついたのであった。
「わ、わ……び、びっくりした」
その言葉を発したいのはむしろ綴の方である。彼女は同学年の男たちから、そのスタイルの良さをとても評価されていた。目に見える程に分かる柔らかさは、綴を思いっきり引き込む。バイトをいくつもこなしたおかげで鍛えられた身体の一部を、二つの膨らみが強く挟み込んでいた。それに、真夏日と言えるくらいに熱い今日は、誰もが薄着である。名前の胸がしゃがみ込んでいる彼の腰辺りにぐいぐいと押し付けられる。正直、綴はもはやペリカンどころではないし、ちょっとしたラッキーなイベントまで起こして欲しいなんて願っていないと心の中で叫んでいた。役得だったかもしれないが、心の準備をする間もなかったために綴は今の状況にどう対応していいのか分からない。
抱きついたまま、名前は水飛沫の主犯であるペリカンの後ろ姿を目で追いかける。綴は、行き場のない両手を宙に彷徨わせながら、真っ赤な顔を彼女に見られまいと必死であった。触れたことのない柔らかさに襲われて、意識がどこかに飛んでいってしまいそうで堪らないのだ。その後、何もなかったかのように名前は綴から離れて、すっと立ち上がる。彼に何も声を掛けずにペリカンから遠ざかって行こうとする彼女の耳は、綴の頬にも負けないくらい染まっていた。
Title:ジャベリン