箱庭ではお静かに

小さな餌箱を持ったまま、わたしはお猿さんたちのいる木の下で固まっていた。目がビー玉のようにまんまるで、長い尻尾が縞々の生き物が視界にチラチラと入る。彼らはわたしが大好物の入った餌を持っていることを確認すると、どんどん距離を詰めてきているのだ。一方、わたしにその餌箱を持たせた臣くんはカメラを構えて楽しそうにしている。ガイドさんによると、餌を装備してじっとしていることで向こうから身体にくっついてきてくれるというのだ。臣くんも一緒にやろうと誘ったのに、彼はせっかくだから写真を撮りたいと頑なに譲らない。ということがあって、わたしは木々を渡り歩く彼らを待っているのだ。



「あ、名前」



臣くんにその声の理由を尋ねる前に、とんと肩に錘が乗った感覚になる。鼻に縞々の尻尾が擽るように触れてくる。一匹のお猿さんがわたしの肩に乗ってきたようだ。臣くんはそのまま、そのままと言ってカメラをこちらに向ける。そんな彼にお構いなしなのは、もちろんわたしの胸元まで下りてきたお猿さんだ。器用な手先で小箱から餌だけ取ると、わたしの腕の上でご飯タイムを始める。シャッター音が何度も響くため、この状況を撮られていることは分かっていたのだけど、わたしは今きっと写真向けの表情を作れていない。別にモデルさんを務めているわけではないし、そんなに気にすることでもないか。
何枚か写真を撮って満足したのか、臣くんがわたしの元へと歩いて来る。いつの間にか、お猿さんの尻尾がわたしの腕に巻きついていた。餌はすっかりなくなっているというのに、わたしの身体から木へ戻ろうとしないその子に困惑しながらも、臣くんを見上げる。



「はは、すっかり気に入られてるな」
「他人事みたいに言って……こうなるまで、ちょっと怖かったんだからね!」
「少しオドオドしている名前も新鮮で可愛かったけどな」
「すぐ、そういうこと言う……」



臣くんの収めた写真の中には、顔の引き攣っているわたしがいる。そして、お猿さんが下りてきた瞬間を狙った写真、ここは俺の居場所だと主張しているお猿さんと困惑しているわたしの写真。覗き込んでいる臣くんはとても楽しそうだったけれど、やがて、わたしに巻き付いたまま離れないお猿さんの尻尾をちょんちょんとつつき出す。動物園にいる時間が長いからか、ちょっとやそっとでは動揺しないお猿さんは余裕そうに臣くんを見ていた。



「しまったなあ」
「ほらー!臣くんも餌あげてたら、こんなことしてもらえたのに」
「……違うぞ」



てっきり、お猿さんがわたしに懐いて触れ合うことが出来ていることを羨ましい、そう感じているのだと思った。臣くんは首を振りながら、目を細めて笑う。お猿さんはようやくわたしの元から離れて行った。ほんのり残った匂いに寂しさを感じたことは、彼には内緒にしておこう。わたしの手を引いて先導し始めた臣くんは、片方の手で帽子を押さえながらそっと零した。名前が、取られちゃったな、って。



Title:誰花
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