テディベアは不眠症

「か、かわいい……!十座くん見て、かわいいよ!」



ふわふわした綿菓子みたい。そう言うと、十座くんの眉毛がぴくりと動いたのが分かって、わたしは抱いているウサギを自分の方へと引き寄せる。綿菓子みたい、と例えただけ。お願いだから、十座くんそんな目でこっちを見ないで。
ピクピクと動くウサギの耳を見ながら、わたしは十座くんの劇団のことを思い出す。春組の第二回公演の時にウサギの耳を付けたお兄さんがいて、細かに揺れるそれにクギ付けになっていると、隣にいた十座くんに小突かれた。そんな春組は、既に第三回の公演を終えている。ウサギのお兄さんが主演で、ハンカチが必須だった。十座くんに次の公演も楽しみだねと言うと、彼も返事は素っ気なかったものの、ソワソワし始めたので心を躍らせていることがよく分かった。
十座くんは、飼育員のお姉さんから膝の上にちょんと乗せてもらった茶色のウサギをじっと見つめている。普段、見上げるくらいに大きな十座くんが膝を折って、こんなにもコンパクトになっている姿は新鮮だ。ウサギも十座くんも緊張していることがわたしにも伝わってくる。膝から太腿の辺りをぴょこぴょこ動き始めたウサギを目で追う十座くんは、手を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返す。



「触ってみて。ふわふわしてるよ」
「ああ……」



返事をしても、なかなか決心のつかない彼は何度も何度も繰り返す。それがおかしくて、思わず吹き出してしまうと隣にいた飼育員さんも、一緒になって笑い出す。ウサギは鼻をヒクヒクとさせながら、十座くんを見上げている。緊張が解けてしまったのはどうやらウサギの方が先だったらしい。
わたしは膝で遊ばせていたウサギを抱き上げると、若干開けていた十座くんとの距離を詰めて座り直す。そうして、再度ウサギを下ろすと、ウサギたちが白色と茶色が混ざり合うように身体をくっつけ始めた。わたしと十座くんのちょうど間くらいに位置するウサギたちは、なんだか楽しそうに見える。ねえ、十座くん。そう言って隣を見れば、彼はわたしやウサギが目に入らないような方向を見て、片手で顔を覆っていた。小動物と触れ合うことが目的の場所なのに、楽しまないともったいない。



「そっちには動物さん、いないってば」



飼育員さんが彼氏さんはとても可愛らしい人なんですね、とわたしにニコニコしながら言ってきたものだから、慌てて否定をする。今日、動物園にやって来たのは、学校で彼に動物園のチケットが二枚余っているからと誘われたからだ。そういう関係ではない。復活したと噂の劇団を観に行った時にたまたま同じクラスの十座くんがいて、仲良くなっただけ。動物園に誘われたのだって、きっと本当に仲の良い友達には断られて、最終的にわたしに落ち着いただけなのだろうから。飼育員さんが首を傾げていたけれど、わたしは真っ白で柔らかいウサギの背中をゆっくりとひと撫でした。



Title:ジャベリン
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