正直なところ、どうしてこんな状況になっているのか誰か教えて欲しい。
脚本を仕上げて、細かな調整も終わった次の日の大学。思いっきりクマを作って講義に臨んだ。瞑ってはいけないと思う瞼も、眠気に負けて少しずつ下りてきてしまう。そんな俺を横から啄いてくれていた名前ちゃんは、同じ学部の子でかなり仲の良い女の子だった。どうして横に座っているかというと、俺の事情も全て知っている彼女に自分でお願いしたから。いくら眠たくても、講義を蔑ろにするわけにはいかない。劇団の一員として恥ずかしいことが出来ないのは、皆木綴という人物は劇団の外でも見られているはずだからだ。もし、俺のせいで評判を下げてしまうことになったら皆に申し訳ない。
目を開いて初めて見つめる天井に、これまでの経緯を少しずつ思い出してくる。講義が終わった後、どこかでちょっと仮眠をしようと思っていたら彼女が大学に近いから部屋を使っていいよと言ってくれたのだ。もちろん、最初は全力で断った。彼氏と彼女の関係でもないのに、二人きりでしかも名前ちゃんの家なんておかしいと思ったからだ。でも、彼女も綴くん疲れてるんだから遠慮しないで、と引かない。結局折れたのは俺だった。
身体に掛けられた毛布を片手で触りながら、手足をグッと伸ばす。さすがにベッドを借りるわけにはいかないと言い張ると、じゃあこのソファーは簡易ベッドになるからと言って貸してくれた。ぬいぐるみが端っこに置かれた彼女のベッドを使うなんて、取り返しのつかないことになりそうだったからソファーベッドを借りたのだ。
「おはよう、綴くん」
まるでカップルのようだ。そんな言葉が頭を過ぎって、俺はブンブンと頭を振りながら近くに置いてある鞄からスマホを取り出して、画面を付ける。すると監督や春組の皆から電話やLIMEなど大量に送られてきていることを通知が示していた。そして、そこに表示された時間に思わず大きな間抜け声を出す。眠る前は16時くらいだったから、ひと眠りして晩飯に間に合うように帰ろうと思っていたのに。今、時計は21時前を知らせている。寝ぼけ眼だった俺は、一気に覚醒した。
「よく眠れた?」
「……ごっ、ごめん、ほんとにごめんな、こんな時間まで!すぐ帰るからっ!」
「ううん、わたしは大丈夫だよ。それに」
「まず監督に連絡いれて、うわ、至さんが女でしょ?って言ってる……!」
「……それに、わたし、綴くんに帰って欲しくない、なあとか」
大慌てな俺の手からスマホが落ちた。傍にきた名前ちゃんがじっとこちらを見つめたまま、懇願するような声で迫ってくる。からかってるだけだろ、といつもの調子で返すことも叶わない。なんだよそれ、じゃあ俺に一晩泊まれって言うのか。その言葉の意味、ちゃんと分かって言ってるのか。心の中の叫びなんて知らないまま、彼女は身体をぴったりとくっつけるように俺の胸へ寄り添ってくる。何も持っていない両手が宙をふよふよと彷徨った。既に風呂を済ませたらしい彼女のパジャマ姿が、視覚をも揺さぶる。綴くん。もう一度名前を呼ばれた俺は、ああもう、と小さく零して両手を彼女の背中に回した。このまま、ここで夜を明かしてしまう以外に選択肢なんて既になかったのだ。