「十座くん、十座くん」
修学旅行中にまさか彼と二人きりになる瞬間が来るなんて思ってもみなかった。十座くんと同室の男子がみんな女子部屋に来たのだけど、彼は爆睡しているから置いてきたと彼らが言うのだ。それはかわいそうだと思ったわたしは、先生の目を掻い潜って十座くんの眠っている部屋に来ている。歯軋りが煩いと言われていたけれど、今はそうでもないと思う。本当は彼も一緒に連れてくるはずだったなんて男子の一人が零していた。でも、その気はないんだろうなあ、とわたしは話を聞いていた。こんな時間だし、先生の巡回もさすがにもうないと思ったわたしは、この部屋に戻ってくる気なんて全くないであろう彼らの荷物を見やる。十座くんの傍には、甘いお菓子の袋がいくつも畳まれている。食べた後、きちんと片付けているんだなあ。そういえば、寝る前にチラリと見た彼は、両手にお菓子を抱えていた。
大きな身体を揺すっても、十座くんは一向に目を覚ましてくれない。強面な彼だけど、眠っている様子はとても可愛らしくて思わず笑ってしまった。クスクス、秘密の話を二人でしているような気分。十座くんはきっと朝まで起きないだろう。
あの部屋に戻るのはちょっと気まずいところがある。なぜなら、遊びにやって来た男子とカップルが成立している友達もいれば、風の噂で誰が誰を好きだとか聞いた。話を聞くのとか、その様子を見ているのは楽しいけれど、さすがに朝まで付き合わされてしまうと精神的に疲れてしまう。なら、このまま十座くんのところで眠って、早朝こっそり部屋に帰ったらいいか。
十座くんのわりと近くでゴロンと横になったわたしは、もごもごと口を動かしている彼の方をしばらく見つめた。十座くんが優しいところ、知っているんだよね。外見だけで判断しちゃダメだなあ、本当に。甘い物が好きなところとか意外だから、ギャップあるし。ぱちりとひとつまばたきをすれば、十座くんの瞳がわたしを映していた。驚いて目を丸くしたのはお互い様だったようで、彼はすぐさま起き上がると咄嗟に距離を取る。
「……っと、なんで」
「十座くん、しーっ!」
「わ、悪い」
男子と一緒に寝ているはずなのに、いきなり女子が目の前に現れたらそりゃびっくりするだろう。でも、大きな声を上げると先生に見つかってしまう。わたしは人差し指をくちびるに当てて、十座くんに静かにするように注意した。未だに落ち着かない彼は、ソワソワしながらも元の布団へと潜り込む。同様にしたわたしは顔だけを覗かせて、十座くんに状況を説明する。納得したのかそうでないかは定かでないけれど、一応状況だけは把握出来たらしい。
「名前は、今夜ここにずっといるつもり、なのか」
「うん」
「そ、そうか……」
布団を引っ張って顔を隠した十座くんは、しばらくそのまま動かなくなった。足掻いてもどうにもならない状況に諦めがついたから、寝ちゃったのだろうか。わたしも早く寝て、明日の自由行動に備えよう。布団の擦れる音を立てながら、わたしは十座くんのいる方向とは逆を向いて、ゆっくり目を閉じた。やけに、時計の針の音が大きく聞こえる。自分の心臓の音もはっきり聞こえていた。眠る時、自分の鼓動がこんなにも大きく聞こえたっけ。
もう少しで眠れそう。意識が溶けていくような感覚に陥っていた時、心臓を掴まれるような勢いで背中からお腹へと回ってきたがっしりとした腕に、身体が跳ねた。この部屋にわたしと十座くんしかいないのだから、犯人は決まっている。随分と大きい彼の身体がぴったりと背中にくっついている。ガタイのいいことは知っていたけれど、鍛えられた身体はそうだとばかりに激しく主張してくる。そうして、身体には似合わないくらいに小さく、好きだと十座くんの低い声が聞こえる。一人用の布団の中が、二人の熱でとても熱かった。