カムイ様が白夜と暗夜を結び合わせたことは臣下のわたしとしても、大変喜ばしいことである。毎日苦悩し続けるカムイ様のお姿を見ることは、辛いことだった。手助けをしたいと思っても、わたしの力量と立場だけではどうすることもできない。勢力のある二つの国を動かすのは、ただの臣下には到底無理なことだったのだ。しかし、カムイ様はどちらの国にも縁がある。そこが強みだった。 時間はかかったものの、二つの国が争うことなく落ちついたが、わたしはまた別の問題を抱えることになった。カムイ様の笑顔を見ることができるのは臣下として、大変喜ばしいことなのだが、まさかわたしにこんな悩みが降りかかってくるとは思いもよらなかったのである。カムイ様の臣下であるわたしはもちろん常にお側にいるが、そんなわたしたちに寄ってくるのは毎日同じ顔ぶれで、最初はカムイ様に用事があるのだとばかり思っていた。白夜、暗夜のそれぞれのカムイ様の弟である。どちらも国の第二王子とされており、カムイ様に負けず劣らず顔の整った王子たちだった。毎日カムイ様に話をするために忙しい合間を縫っては、会いに来ている。そう思っていたのはわたしだけで、タクミ様もレオン様も、そしてカムイ様も知っていたのだと後日言っていた。顔を合わせれば言い争いになる二人だったけれど、カムイ様がいらっしゃるのなら問題はない。ただし、毎回毎回カムイ様がいらっしゃるわけではなく、ついにこのような日を迎えてしまったのだった。タクミ様とレオン様と、わたし。カムイ様は不在である。 「あ、あの、今日はカムイ様はいらっしゃいません……」 「ふーん」 「僕は兄さんを待つ」 「……帰りは遅くなるとおっしゃっていました」 「それでもいい」 「用事があるからね」 カムイ様はリョウマ様やマークス様に呼ばれたようで、今は会議中である。そんな時に、あの第二王子たちが訪問してきたのだ。なんて、間の悪い。わたしだけで、タクミ様とレオン様に対応することはどう考えても無理だ。まだ、出会って一分しか経っていないが、既にこの場から脱兎のごとく逃げ出したい気持ちでいっぱいである。息を吸うことさえ、苦しい。そのくらい、わたしにとってこの場は重たい空気しかないのだ。王家の血を引く二人の相手をどうやってするのか。弾んだ話ができれば良いのだけれど、あいにくそんな雰囲気ではないことも理解していた。とにかく、カムイ様に早く戻ってきてくださいと願うばかりである。空に向かって小さく手を合わせる姿を、彼らに見られないように必死だった。時間が早く進めばいいのに、とこの時ばかりは強く思ったものである。 「ところで、名前」 「は、はい、レオン様」 「お前は兄さんの臣下なんだろう?」 「そうですが」 「兄さんに許可をもらえば、僕の臣下にしても構わないよね」 突然の話題に固まるしかなかったのはわたしだけでなく、タクミ様も同じように信じられないといった表情をしている。カムイ様がわたしに、レオン様の臣下になるように命令したのなら、それは従うしかない。レオン様の言い分が通れば、の話だけれど。心の中では認めたくなかったけれど、王族に仕えるわたしは反抗するような権限など持っていない。ひとつ頷くと、レオン様は大層機嫌を良くしたようだった。カムイ様から許可が出たわけでもないのに。それに、わたしを臣下にしても良いことなんてロクにないだろう。そう、レオン様に良いことなんて、ひとつもないはずなのだ。わたしは必死に弁解を始める。カムイ様は心の広いお人だから、わたしの失敗を笑って許してくださるし、いつも気にかけてくださると。わたしがこうしてカムイ様の臣下をできているのは、全てあのお方のおかげであると。普段あまり彼らの前で喋る姿を見せなかったからか、レオン様は呆然としてわたしの言葉を聞いていた。タクミ様はくちびるを噛んだ様子で、わたしのことを睨んでいる。きっと、自分の兄がこんな能力のない女を側に置いていることに腹を立てているのだろう。カムイ様は悪くない。悪いのは、誰が見ても口を揃えて言うだろう。臣下のわたしだ。 「別にそれでもいい。僕が臣下にしたい、ただそれだけで充分だ」 「レオン様」 「はあ?そんな使えない奴を兄さんの傍に置いておけない。僕が一から鍛えてやるから、名前は僕の臣下にもらう」 「た、タクミ様も……」 カムイ様がいないこの場で、勝手に話がどんどん膨れていっている。わたしの希望としてはずっとカムイ様のお側にいたい。そのために毎日努力を少しずつ重ねているつもりだ。結果にすぐに結びつくとは思っていないけれど、そんなわたしの姿をカムイ様が見守ってくださっているのも知っている。中途半端な状態で、タクミ様やレオン様のところへ送られるなんて恐ろしいことだ。カムイ様だけに留まらず、彼らにも迷惑をかける結果になるのは目に見えている。だからこそ、そっとしておいて欲しいというのに。 「タクミ王子に名前を扱えるとは思えないね」 「それは僕の台詞だ。レオン王子」 「ふ、二人とも、やめてください。わたしはカムイ様の臣下なのです」 「関係ない。これは主の問題だからね。お前が口を出せることではないよ」 「名前は兄さんに迷惑しか、かけていないんだろ?なら、僕がそれを矯正する」 聞く耳を持ってくれない王子たちにはお手上げである。そんな時、わたしは城から出てくるカムイ様のお姿を見つけた。救世主が現れたとばかりに、目を輝かせているとタクミ様とレオン様が二人して静かになってしまう。不思議に思ったわたしがキョロキョロと二人の様子を伺うと、タクミ様は頬を染めてそっぽを向いているし、レオン様は顔を手で覆っていたものの隠せていない耳がほんのりと赤くなっている。とにかく黙ってくれたことに感謝したわたしは、カムイ様おかえりなさいと大きな声で叫ぶ。まるで飼い主の帰りを今か今かと待っていた飼い犬のようだった。尻尾をぶんぶんと振る犬だと例えられそうである。 カムイ様はわたしたち三人を見ると、お前は本当に魔性の女だなと言う。カムイ様の口から魔性なんて言葉が零れるとは思っていなかったわたしは、ちょっと怒り気味な口調でカムイ様に変なことをおっしゃっていないで帰りましょう、と告げた。タクミ様とレオン様は放っておいて。 |