「カムイ!」 「名前、おはよう」 朝日の昇る前に目が覚めてしまったわたしは、自分の部屋を出て、外を彷徨っていた。すると、同じように目的もなく歩き回っていたカムイに出くわしたというわけだ。幾多の戦場を駆け回ってきったわたしとカムイはいわゆる親友という仲ともいえるくらいには、仲が良いと思っている。武器と戦術の相性もバッチリなものだから、一緒にいる時間の方が長いくらいだ。そんなカムイを見つけて声をかけないわけがないが、わたしは手を振りながらも昨日までのことを思い出していた。親友だとは思っていても、やはり譲れないものは出てくるもので。 カムイに仕えているスズカゼさんという忍がいる。物腰の柔らかい人で、口調も優しく、自然と彼のペースに巻き込まれていってしまう。惹かれる女の人も多いと思うし、わたしもその中のひとりだった。でも、スズカゼさんはいつだってカムイの傍にいて、カムイのために尽くして、カムイにだけ笑いかけるのだ。嫉妬しない方が無理だという話。そこに恋愛感情があるかないか、はっきりとはしていないものの、あんなに近くに素敵な人がいれば、もう既にカムイは虜になっているのではないのか。いろいろと心の中で渦巻くことは誰にも言えないし、ましてや話を聞いてもらうはずのカムイがその渦中にいるのだからこの想いは閉じ込めておかなくてはならない。それに、スズカゼさんやカムイを失うことが怖くて仕方ないのだから。 「おはよう、カムイも早いのね」 「なんだか、目が覚めてしまって」 「わたしと一緒」 明るく振舞わなければならない場面は幾つも乗り越えてきた。カムイが泣いていた時だって、涙ひとつ零さずにその背中を支えた。本当はカムイの前で涙を流せなかったというのが正しいのだけれど。その時にわたしに声を掛けてきたのがスズカゼさんだった。貴女も泣いていいのですよ。そう、彼は言う。悲しい時は思いっきり涙を零すことも必要なことです、と続ける。理解はできても、やはりわたしの目から涙が零れることはなかったが、スズカゼさんはそんなわたしの頭をゆっくりと撫でてくれた。優しくされて、すぐに好きになってしまったわけではないけど、そういうところも含めて彼のことが好きだと思った。 「ところでね、名前」 「うん」 「スズカゼさんのことなんだけど」 顔が一瞬で引きつったのが自分でも分かる。カムイの表情はすごく明るいもので、まるでわたしに幸せの報告でもするようだった。聞きたくない、その言葉は今までのわたしだったら容易に飲み込めていたはず。でも、今日ばかりはカムイの言葉を聞いた瞬間、反射的に口から飛び出ていた。自分を守るためにだ。言ってしまった口を押さえるけれど、もう遅い。言霊を確かにカムイにぶつけてしまったのだ。恐る恐る彼女の表情を伺ってみるけれど、強い口調で傷つけられたとは思えないもので、一瞬本当に言っていないのではないかと錯覚に陥った。相変わらずニコニコしているカムイが気持ち悪いくらいだ。友人なのにどうして聞いてくれないの、と詰め寄ってもおかしくないのに。 「ごめん、カムイ」 「もしかして気づいているの?ふふ、それであんな……」 「えっ」 「照れ隠しなんてしないでいいのよ。親友なんだから」 カムイは楽しそうにわたしの両肩をトントンと叩く。そして、そのままわたしの身体を抱きしめる。突然のことについていけないわたしは、カムイの勢いに負けそうになりつつもなんとか踏ん張ってその場に立つ。彼女はわたしの耳に息を吹きかける。身体を震わせれば、クスクスと小さな笑い声がわたしに届く。 「名前、スズカゼさんがね、貴女とゆっくり話がしたいって言ってたわ。それって、なんだか他意があるようじゃない?ふふ」 Title:ジャベリン |