あの娘はよく怖い顔をしないで、と俺に言う。別段、怖がらせるような表情を作っているつもりはないが、どうやら怒っているやら気難しい人だといったイメージを周りに与えているのは確かだった。彼女は最初から俺がもともとこういう表情を作りがちなことを見抜いていたから、忠告してきたらしい。少年少女は何も喋っていなくとも、その場に居づらいらしく、気がついた時には姿を消している。大人は気兼ねなく話をしてくれるのだが。



「ほら、アシュラさん。わたしがいつも言っているでしょう?」
「お、おお……」



最初はその大人たちと話をするのも躊躇われた。今はカムイ様に仕える身ではあるが、もともとはそうでない。どこか距離を置いていなければ、ここでの居場所はないと思い込んでいた。そこをカムイ様に指摘されて、自分から話をするようにしてみればその環境は大いに変わったが。自分が思っている程、周りは俺の境遇を気にしていない。カムイ様が決めたのなら、と受け入れている上に、他にもいろんな境遇の人間たちが集まっていたのだ。要するに、自分ひとりだけが蚊帳の外からやって来たわけではない。そして、全く関係のなかったこの娘もカムイ様に拾われてここで暮らしているという。最初こそ、戦力にもならないと言われていたらしいが、彼女なりに努力をし、今では雑魚相手だと活躍できるくらいに成長したと聞いている。



「怖い顔しちゃダメです」
「分かってはいるんだがな」
「うーん、それは分かってるって言うんですか?」
「あんたは相変わらず手厳しいな」
「ふふ」



笑って、俺の隣に腰を下ろした娘の名前は名前という。随分と歳の離れた女ではあったが、こうやって話し相手になってくれるのはいつも彼女である。何気ない話を長い時間ずっと聞いてくれ、喜び、怒り、哀しみ、楽しむ。感情表現のなんとも豊かな娘だった。俺が忘れていた感情を蘇らせてくれるようで、彼女の感情がだんだんと俺にまで伝染してくる。一緒に味わうような、その感覚はとても新鮮で心地良いものだった。あたたかな日差しが降り注いでくる場所で、こうして寛げる日が来るなんて思わなかった。もう、陽の目など二度と見るものかと思うくらいには暗く、闇の蔓延る世界で生きて、やがて死を独りで迎えていくはずだったというのに。カムイ様が手を差し伸べてくれなければ、この娘が俺を気に掛けてくれなければ、絶対にありえなかった話だ。



「名前、何か欲しいものはないか」
「唐突ですねー、アシュラさん」
「いろいろ世話になっているからな」
「でも、わたし別に物なんていりませんよ」
「そうか……」
「アシュラさんが笑ってくれていたら、それでいいです。カムイ様も似たことおっしゃってましたよ。まだまだ心細いかもしれませんが、もうひとりぼっちじゃないですから」



膝をトントンと叩かれる。決して強い力ではないそれは、日差しの与えるあたたかさとはまた少し違う熱を持っていた。俺よりも生きている時間が短いくせに、生意気なことを言いやがる娘だ。でも、的確な言葉だと同時に感じていた。短い生の中で、この娘は一体どのようにして成長してきたのだろうか。カムイ様に拾われた時には家族も全て失ってしまったらしいが、どうしてこうも強く生きようとしているのだろうか。女は強いとは言うが、この娘にもどうやら言えることらしい。



「名前」
「はい?」
「いつも……ありがとうな」
「えー!アシュラさんが感謝の意を」
「大人をからかうな」
「ふふ、ごめんなさい。でも、わたしは特別なことなんてしてませんよ」
「そうだな、あんたはいつもそんな感じだしな」



Title:さよならの惑星



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