恋のはしっこ
中指を立てたくなるような日だって、アイツは優しく笑ってた。
「ヒロト! 待ちなさい!」
綺麗に着飾った姉さんの、困った様な声が、俺の後頭部に刺さる。聞こえないふりをして俺はタイを緩めた。携帯を取り出し電話をかける。すると、ツーコールの後「もしもし? ヒロト君、どうしたの〜?」なんて、柔らかい彼女の声が聞こえてきた。
「おい、約束してた時間よりも2時間早いけど、会えるか?」
「あれ? パーティーはどうなったの?」
「抜けてきた」
「そうなの? 瞳子さんに怒られない?」
「怒られるに決まってんだろ」
「あはは……もう仕方ないなぁ。分かったよ、どこ行けばいい?」
「今お前の家向かってっから、着いたらまた電話する」
そう言って電話を切り、俺は彼女の家の方面へ向かった。チカチカ……と、光る液晶を暗くして、俺は自分の足元をぼーっと見つめ、薄暗い道を歩く。ったく、ガラじゃねぇんだよこんな事。ネクタイも、窮屈なスーツも、全部脱ぎ捨てたい。
心ん中でぶつくさと毒を吐いていたら、いつの間にか彼女の家に辿り着いていた。がらん……と、した住宅街の街路樹の下に、彼女が見える。アイツ……俺との電話切った後、ずっと外で待っていたのかよ? 俺を見つけ嬉しそうにニコ〜っと笑うと、ぴょんぴょんと軽く跳ねる彼女に、眉間に皺が寄った。
「お前……ずっと外で待ってたのかよ」
「すぐ着くかなぁって思ったから……ていうか、ヒロト君スゴいおめかししてるね」
「……パーティーだったからな」
「私こんな格好だけど大丈夫かな?」
少しスポーティーな服装の彼女は、クルリと俺の前でターンをしてみせる。パーティーの後は、着替えてから向かうと、伝えていたからか……。彼女は俺が好きなスポーツブランドの服を身に付けていた。
「別に大丈夫だろ」
「本当に? こんな服だったらヒロト君の横似合わないかも……」
困ったように眉を下げる彼女。
何着てたって中身がお前のままなら何でもいい、そう伝えたかったが、俺の羞恥心が俺の邪魔をする。照れ隠しするかのように、彼女の肩をグイッと押して、繁華街の方を向かせる。俺と彼女は二人、歩幅を合わせ、凍えるような薄暗い道を歩き出した。
▼ ▲ ▼
「……お前さ、本当にこんな所でよかったのかよ」
「ヒロト君、今日は豪華な料理見飽きたかなって思ったんだけど……違うところがよかった?」
ハンバーガーに大きく齧り付く。ケチャップの後味を追うように、細くてカリカリしたしょっぱいポテトを口に投げ入れたら、最強の味がした。
「普通さ、女はクリスマスには特別なものが食いたいとか言うだろ」
「それって大人だけじゃないの?」
「知らねぇ」
「知らないよねぇ」
窮屈そうなタキシードのまま、彼はポテトを齧り、コーラを飲む。ズズズ……っ!! と、下品な音が鳴っても、このお店なら全然気にならない。誰も気にしない。それに、今日はあクリスマスだからか……、人が少なくてなんだか心地よかった。
ヒロト君はウザそうに、セットした髪をぶるぶると犬みたいに揺らして、携帯を取り出した。さっきからずっと液晶がチカチカと光ってる。だけど、彼は何も言わず、出る事もせず、携帯を睨みつけていた。
「……パーティー、本当に抜けてよかったの?」
「どうせ俺がいない方がいいんだよ」
「そんな事ないよ」
彼のそんな弱気な言葉に胸が痛い。私は、眉を落とし彼を見つめる。
「お前がそんな顔すんな」
私のそんな顔に気がついた彼は、困ったように笑った後、優しい声でそう言った。
ポテトもジュースも、何もかも食べ終わった私達は席を立つ。いつの間にやら、少し混んできた店内。そこから逃げる様に、ササッと外に出ると、さっきよりもうんと寒くて身体中がブルブルっと震えた。
「寒ー!!!」
「声がでけえよ」
「ヒロト君温かいところ行こうよ」
「さっきの店ずっといればよかったじゃねえか」
「折角だし、タピオカでも飲みに行こうと思ったのに」
「寒いのにまた冷たいの飲む気か?」
「ホットもあるよ〜!」
そう言って、ヒロト君の背中を押して、地下街に押し込めば彼は「オイ!」と困ったような大きな声を出した。
▼ ▲ ▼
タピオカ屋には、この世のカップルを全部集めてきたんじゃないか……? と、錯覚する程の人、人、人。仕方ないので俺達は、テイクアウトをして近くのベンチに座る事にした。
「……おい、もうここも人いっぱいじゃねえか」
「外のベンチ行く...?」
「お前、死ぬ気かよ」
「仕方ないじゃんかー」
ホットのドリンクを片手に持っている俺は、さき程よりは体が温まってきてるのでかまわないが、頭の悪い彼女はすごい量のアイスミルクティーの容器を持っているので、外に出ればどうなるかなんて馬鹿でも分かるだろ。
「風邪ひくだろうが」
「ひかないもん」
「……はぁ、これ飲んだら帰るぞ」
「分かった!」
ベンチに向かって歩くと、少しずつ少しずつ寒くなっていく空気。冬の夜の鋭い空気が口に入るたび、けほっと咳き込んでしまう。はあ……と、白い息を吐きながら後ろを振り向けばガタガタと彼女が震えていた。
大丈夫かよ、と、眉間に皺を寄せれば、俺のそんな顔に気が付いたらしい「大丈夫だよー」と笑った。
「……絶対飲んだらすぐ帰るぞ」
「分かったってば、お母さんみたい」
「誰が……! って、もういい早く飲めよ」
スプーンでスープでも飲むみたいにタピオカを底からすくい上げれば、どろっと周りが溶けだしたタピオカが顔を出す。2、3粒を噛み潰して飲み込み、彼女を見れば、寒そうに震えながら、太いストローからタピオカを狙っていた。
「さむいー」
「言っただろ」
「うー無理、寒い、でもタピオカは美味しい……」
「はぁ〜……ほら、手かせよ」
こんな時しかコイツに触れられない自分が情けない。
だけど、彼女は嬉しそうに微笑んで、こちらに少しだけ近寄ってきた。拳4つ分の距離が埋まって、ピッタリと体をくっつけ、ベンチのはしっこで、俺達は手を重ねた。こんな寒くて、嫌な夜でも、コイツの仄かな体温が俺の全てを溶かしていく。ぎゅっと握れば、彼女は「ヒロト君はあったかいなぁ」なんて、鼻を啜りながら無邪気に笑った。
20181231[冬の恋]
→20211222修正
クリスマスに少しでも近付きたい二人
リン様 企画参加ありがとうございました!
ホットタピオカ飲む吉良くんを書きたくて書きました、タピオカ嫌いだったらすみません(笑)
可愛らしいカップルを目指しましたがいかがだったでしょうか??
2019年もよろしくお願いします!