ねこちゃんみたいな雪の日
「リュウジ、おでん食べよう」
「食べよう・・・お腹空いた〜〜」
「何から食べる?」
「たまご!」
零雨が淑やかに垂れた睫毛のように◎は綺麗に微笑んでコンビニで買ってきたおでんを小さな小皿に取り分けていく、割り箸を俺の手元に置いて◎は自分の分のたまごを小皿に乗せてパキンと割り箸を割る。
ちょうど真ん中辺りに箸を突き刺して◎はぱっくりと卵を割る、固そうな黄身が小皿のくぼみに少しだけ溜まったおでんの汁に溶けて濁った。
それを暫く見た後、彼女の後を追いかけるように箸を割り卵に突き刺した。
ポロポロと白身と黄身が小皿に溜まった汁に落ちる、何故かわからないけど俺はこの光景が好きだ。
「いただきます」
「いただきます!」
揃ったような揃わなかったような声、俺達は角ばった割り箸で二等分したうちのたまごのお尻の部分を摘んで口に運んだ。パサパサしている黄身に口中の水分が持っていかれてしまう、卓上に置かれた湯のみを手に取り一気に流し込めば随分と口の中が軽くなった。
俺がコトリと置いた湯のみに手を伸ばして同じように卵を胃に流す彼女の淡紅色に染まる頬をが揺れる。
「たまごって美味しいけど、口中の水分持ってかれるよな」
「でもそれがいいよね」
◎はニコリと笑ってたまごの頭を口に押し込んだ、もぐもぐと何度か咀嚼した後ゴクリと飲み込むとまた湯のみに手を伸ばす。
コンビニのおでんを食べ終えて二人で台所に小皿を運んだ後、ぶるりと震えた肩を抱いて寝室のある方へと向かった。
今日はお日さま園の皆は遊園地に行ってるからかシンと静かで、それが妙に落ち着く。
「・・・リュウジ?」
「ん?」
「まさか」
「布団の中でする事は一つだろ」
「えぇっ」
「ははっ、冗談」
「本当にびっくりしたじゃんか」
呆れたような◎から離れてするりと布団に潜ると枕元でしゃがみ俺の顔を覗き込む◎。
「眠たい?」
「寒いだけ、一緒に入ってくれよ寒いから」
「面倒臭い彼女みたいなこと言うね」
しょうがないなと呆れ気味に、だけれど少しだけ嬉しそうな声色で俺に背を向けるようにして布団に入ってきた彼女の体を抱き締める。布団の中は当たり前だけど少しひんやりとしていてまるで濡れ雪のせいで重くなった上着のようにズシリと俺達の体に鎖を施す。
「手冷たい」
「あっためて」
「私も冷たいよ」
「仕方ないなぁ、俺が暖めてあげる」
◎を抱き締めたまま胸元あたりに持ってきた手を擦ってあたためる、少しずつあたたかくなっていく二人。俺は少しの悪戯心と下心と愛に突き動かされ彼女の首にそっと顔を埋めた、冷たい鼻先が一番弱い場所に当たったからかびくりと俺よりも少し小さな体を揺らして「びっくりした」と怒ったような笑いを堪えているような声を漏らす。
「・・・俺、猫だから飼い主に甘えてんの」
「猫ちゃんになっちゃったの?」
「悪い雪の女王の魔法で猫に変えられた」
「映画の影響受けすぎでしょ」
「そんな事ない」
「ニャーって鳴いてみて」
「にゃー」
「ふふ、猫くん寒い?」
「にゃぁ」
あぁ誰もいなくてよかったと心底安心する。
少しだけ暖かくなってきた布団の中で身を寄せ合い猫になった俺は彼女の首筋の匂いを嗅いだ、まるで飼い猫が外に行ってきた飼い主への浮気調査のように徹底的に。
柔らかい香りが鼻を掠めた、くすぐったいのか頭を動かした拍子に彼女の少し乾燥気味の毛先が俺の頬を刺激する。
いつの間にか少しあたたかくなった手のひらで俺の手をぎゅっと握り「ねこくん」と甘えた声を漏らす◎をもっと苦しいくらいに抱き締めて深呼吸した。
彼女の優しい香りに目を細める。
「眠くなってきた」
「まだお昼だよ」
「一回寝よう」
「お昼寝?」
「寒いから何もする気起きないだろ」
「おでん食べたばかりだから顔浮腫みそう」
「浮腫んでも可愛いからいいの」
そう言えばグルンと布団の中で小さく回り俺の方を向いた彼女は今度は俺の事を抱き締めながら胸元に顔を埋める、もうこれではどちらが猫か分からないな。
少し悪戯してやろうと思ったけれど眠くなってきた。
顎をやんわりと掴んで自分の方に向かせ、薄っすらとリップクリームがついてる唇にキスをした。
観念したように小さく吐息を漏らした後もう一度俺の胸元に顔を埋めて「寝る」と呟いた彼女の耳が真っ赤になっているのを俺は見逃さなかった。
後頭部を優しく抱き起きた後何しようかなーなんて考えながら俺も目を閉じた。
2019冬の恋企画
雪様、この度は企画参加ありがとうございます!
これから寒さ厳しくなりますので、お体ご自愛くださいませ。
来年もよろしくお願いいたします💌