「好き」だけでは終わらせたくない

 飲み会終わり、少しだけ酔ってしまってぐらつく私。
「大丈夫?」と何度か挨拶した程度の他店の若い社員に肩を抱かれた、少し驚いたが私は彼の善意を邪険にするわけにもいかず感謝の言葉を述べてからゆっくりと離れるとぴったりと私のすぐ横に立つ社員さん。

「送ってくよ」
「大丈夫です、ありがとうございます」
「なに?彼氏迎えにくるとか?」
「いやそんなんじゃないですけど、遅いし迷惑かけたくないんで」
「迷惑なんかじゃないって」

私の肩を抱いて「送るから」と念押しするように声色を落とす社員さん、私はぞわりと背中に鳥肌を立てる。


 最悪の気分だ、家まで帰ってきてカバンをどさりと落として私はベッドに腰掛けた。タバコくさいシャワー浴びなきゃって頭の中では分かっているのに私は中々立ち上がれずにいた。修也に連絡しよう、こんな時に一番最初に思い出したのは修也だった、私は携帯を取り出して彼に電話をかける。
さっきまで触られていた身体の箇所を落としていくように私は服を脱ぎ捨てて脱衣所に落とした、暖房がまだ効いていない寒い部屋。何度か目のコールの後、少しだけ眠たそうな彼の声が聞こえてきた。

「修也、寝てた?」
「いや 本を読んでいた」
「ごめん今大丈夫?」
「あぁ、どうかしたか?」
「それがさー聞いてよ」

私は飲み会での愚痴や、社員に触られて不愉快だったなんて口から流れ出るものすべて修也に愚痴って一息つくためにミネラルウォーターを飲んだ、さっきまで相槌を打っていた修也の声が聞こえない。

「もしもし?」
「なんだ」
「聞いてた?」
「あぁ」
「最悪でしょ」
「振り切ってでも帰ればよかっただろう」
「それができたらやってたよ」
「お前ならそんな男一喝して帰れただろう、隙があったからじゃないか」

今までこんな言い方した事ないのに、つっけんどんにそう言って修也はまた黙る。腹が立って耳が熱くなったのが分かった、私は電話口に「なんでそんな言い方するの!?」と少しヒステリーを起こして通話終了ボタンを押して携帯を洗濯機の上に置いてあるタオルの上に投げた。
泣き出しそうな程イライラして私は着ていた物全てを洗濯カゴに放り込んで浴室の扉を開けた。





 あれから4日ほどが経った、今日はクリスマスイブ。
本当だったら◎と一緒に過ごすはずだった、静かに息を吸ってはけば冬のうんざりするような冷たい空気に身体中が冷える。近くにある今日二人で行くはずだった店に足を踏み入れれば見慣れた後ろ姿が・・・。
向こうも俺に気が付いたのか気まずそうに「ゲッ」と小さく声を漏らす。俺は彼女に何も言わずに通路側の席に座った。

「1人か?」
「うん」
「すみません」

彼女の声と重ねるようにウェイターを呼んでドイツビールを注文、彼女は何を言うわけでもなくそんな俺顔を穴があくほど見てくる。

「なんだ?」
「修也もしかして私の後つけてきた?」
「そうかもな」
「え」
「冗談だ」

気まずい雰囲気のままだが、元々会う予定だった俺たちは無事にグラスを傾けあって乾杯した。


 お互いに5杯ほど飲んだ辺りからか、酒が強くない◎は頬を膨らませながら舌ったらずな言葉で俺を蔑んでいる。「しゅうやはさ!」と、少し赤くなってしまった瞳を揺らして俺を睨む。

「なんで、あんな言われ方したんだろってずっと しょっくだったし・・・」
「それは」
「何よ」
「すまなかった、酷い言い方をした」

”隙があったからじゃないか”なんて、嫌な言い方をした。
俺がそういえば彼女は泣きそうなほど瞳を揺らした後、カシスベースのカクテルを一気に飲み干してから後少しで食べ切れる量のチーズの乗ったクラッカーを口に放り込んだ。

「◎」
「何?」
「お前は鈍感で本当にイラつく時もある」
「・・・喧嘩する?」
「好きだ」
「あのね、それじゃ私も言わしてもらうけど・・・ってなんて?」

俺の一世一代の告白を掻き消した張本人は必死に頭の中で巻き戻しボタンを押しているのか、耳から頬を赤く染めていく。こんな時だがそんな赤ら顔に期待も膨らむ。俺は放心状態の◎を後回しにウェイターにカードを渡して会計を済まし、コートとカバンを彼女の分も片腕に持って店を出た。
寒いが酔った身体には気持ちがいい。店の前を運良く通ったタクシーに彼女を押し込んだ。


 家に着いて俺は酔い覚ましにとミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出した、それをソファーの上で小さく縮こまっている◎に手渡せば「ありがと」とつぶやくように言って俺を見る。

「どうした」
「や、さっき酔ってたせいで幻聴聞いた気がして」
「好きだって言ったことか?」
「あれ本当のこと・・・?」
「あぁ」
「・・・そっか」
「返事は?」
「返事?」
「10年も待った、今日中に聞かせてくれ」

隣に座って彼女の汗をかいたせいで額に張り付いた髪を整えれば、ミネラルウォーターのキャップを開けてグビグビと心配になる程一気に飲んで彼女は俺の肩に頭を乗せた。

「・・・恥ずかしい、暑い・・・待って」
「言えば楽になるぞ」
「だって」
「なんだ」
「・・・す、待って」

痺れを切らしてしまった俺は彼女の身体を自分の腕の中にギュッと閉じ込めて「好きだ、◎」と言ってみた、ここには俺と彼女以外の音がないからか良く響く自分の愛の告白に心の臓が縮む。

「私も・・・すき」
「そうか」

じわじわと熱くなっていく身体。
抱きしめる力を強めれば彼女が腕の中で苦しげな声を漏らした。

「しゅうや」
「こっち向いてくれ」

後ろから抱き締めているから、少し向き辛そうに俺の方に顔を向ける◎の顎にそっと指を添えてキスをした。触れるだけのキス、食事の前には綺麗に塗られていた口紅は唇の輪郭部分に残っているだけで10年前に恋に落ちた少し血色の悪い唇が顔を出す。もう一度唇を重ねれば薄らと唇が開けられたので俺は舌をねじこんでみた、途端に身体を強張らせて曇った声を漏らす◎。
サラサラと揺れる髪を互いに絡めながら、深いキスを続ける、俺の舌の動きに合わせてびくりと肩を震わせる◎が愛らしくて俺は悪戯心に火がついた。

「あの日、肩を触られただけか?」
「・・・嫉妬してるの?」
「当たり前だ」
「修也が?」
「ダメか?」

唇から頬、そして耳に唇を滑らすようにキスをすれば「んっ」と初めて聞く声が漏れた。

「しゅ、や」
「どうした」

太腿に手を伸ばしてそこから着ているワンピースを捲れば情けない声を漏らして彼女は俺の手を掴む。

「寒くないか?」
「うん」
「好きだぞ、◎」
「みっ、耳元で喋らないで・・・」

太腿を撫でて彼女の耳を齧るように歯を立てればびくりと全身を揺らす、布と布の擦れる音が部屋に響く中俺は太腿から腰、そして腹から胸へと指を滑らせる。柔らかいニットのワンピースと柔らかな肌色が想像しやすい感触に俺ははぁっと息を漏らした。

「修也、だめ 恥ずかしい」
「やめないさ」
「んっ、ま しゅや」

胸の形が変わるほどに揉めば彼女は恥ずかしそうに顔を覆って喘いだ、その声にスイッチが入った俺はまるで飢えた獣のように長年想像してきた彼女の肌色を自分だけのモノにするべく間接照明の灯りを落とした。



2019冬の恋企画

ぶたぱんち様、この度は企画参加ありがとうございます!
これからますます冷え込みますのでお体ご自愛くださいませ、来年もよろしくお願いいたします!💌