人差し指でアイラヴュ
なんでマラソンとか生徒の意見を聞かずにやっちゃうんだろう、だから大人は嫌いだ。
「えーん、耐寒マラソンとかやだよー!!」
誰もいない部室に大きな声を轟かせば虚しい私の心じゃ止まれなかった心の声が響く、マネージャーの仕事の片手間に誰にも愚痴れない悲鳴を上げていたら背後から物音が聞こえた。ぐるっと振り向けばそこには少し呆れた様子の鬼道監督の姿が・・・。
「か、監督お疲れ様です」
「耐寒マラソンの時期か」
「はい 出たくなくて、今日水風呂に入って風邪引こうかな」
「・・・そっちの方がしんどい思いをするぞ」
監督は私の隣に座って資料を並べて仕事を始める、私はみんなのタオルを畳みながら「監督は昔嫌じゃなかったんですか?」と聞いてみた。私の想い人である彼はサングラスを取りメガネ拭きで掃除しながら赤くて綺麗な瞳を私に向けて口を開く。
「トレーニングの一環だと思えば何ともなかったな、当時の監督達のトレーニング内容に比べたら可愛いものだったさ」
そう言って笑うとサングラスをかけ直す鬼道監督。相手はスポーツマン、聞く相手を間違えた。
「やだなぁ・・・」
「頑張ってこい 喉元過ぎれば熱さを忘れると言うだろう、その日を終わらせればいいだけだ」
「大人ってそうやって言うじゃないですかぁ」
「本当に嫌なんだな、皺寄ってるぞ」
そう言って私の眉間をコツンと人差し指で押す。
女の人みたいな綺麗で細い指をゆっくりと話すと資料に目を向ける鬼道監督、私はもう少し彼と2人っきりで話したかったが仕事の邪魔をするのはいけないと思いグッと堪えた。
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耐寒マラソンの日がやって来た、毎日のように嫌だ嫌だと唸っていた〇も観念したのか体操服に身を包んでトボトボと女生徒達と歩いてスタート地点に向かっていく。すれ違いざま俺の方を見て「いってきまーす」と元気のない挨拶をして来た〇が面白くて笑みが零れた。
生徒達のことを考えて今日は文化系の部活も含めて休みになったからか、放課後はえらく静かだ。コツンコツン廊下に革靴の踵の音が響く。俺が校門前に停めている車に向かい中に入ろうとした、その時。
「監督!!」
「〇か、お疲れ様 よく頑張ったじゃないか」
「はい なのでご褒美ください」
にこりと満面の笑みでそう言うとリムジンを指差して「乗ってみたいです!」と元気よく言った、よく見れば頬や鼻の先そして指先が真っ赤になっている。
「仕方ないな、乗れ」
「えっ いいんですか!?」
「誰にも見られない内に早く乗ってくれ」
わーい!と無邪気な声を出して彼女は中に乗り込む。
中に入ってキョロキョロと装飾や革の感触を楽しんでいる〇に笑みが零れた。
発進して暫くして〇は少し落ち着いたのか、腕や肩をぽりぽりとかきだす。
「どうかしたか?」
「急に暖かくなったからか痒くなっちゃって・・・サッカー部のシャワー室にボディークリーム置いてなかったから乾燥しちゃったかなぁ・・・」
「ちょっと待て、これを使うといい 掻き毟るな痕になるぞ」
ハンドクリームで使っているものだが、体全体に塗れるものを手渡せばキャップを外して「い〜匂い・・・」とウットリ口角を緩ます〇。
「いつも鬼道監督いい匂いするなーって思ってたんですけど、これの匂いだったんだ 香水かと思ってました」
「香水は流石に学校に付けていかないさ」
「これ借りますね ありがとうございます」
そう言って服を少し捲ってクリームを薄く伸ばしていく〇、じっと見ていたが途中で見るべきではないと思い外を見た。
「監督、ありがとうございました」
少しだけぬるっとしているクリームを受け取りそれをハンカチに包みカバンの中に戻せば〇は外を指差して「あそこ家です!」と笑った。
「袴田、次の信号の手前で停めてくれ」
「かしこまりました」
「監督、あと 袴田さんありがとうございました!すごくいいご褒美でした〜!」
そう言って外に出ようとした〇は曇っている窓ガラスにそっと指を置いて小さな点を作る、何をしているのだろうか。見守っていたら俺の方を見てせっせと隠しながら何か書き「また明日ー!!」と幼い赤い顔を揺らしながら降りていった。閉められた扉にハメられた窓ガラスには・・・。
”ありがとうかんとく ダイスキ”
曇ったリムジンの窓の内側に書かれた愛らしいラブレター、俺はアイツが大人になった時に見せてやろうと思い携帯のカメラを向けた。
2019冬の恋企画
まくらさん、企画への参加ありがとうございました!
まくらさんらしい可愛らしいリクエストにほっこりしました〜私は絶対に思いつかないタイプの話なので少しおかしい所有りますが・・・楽しんでいただけると幸いです!!
今年も一年本当にお世話になりました、沢山遊んでくれてありがとうございます💌
来年もバカ遊びましょうねぇ〜〜〜〜〜!!!!それでは、お体ご自愛くださいませ!
来年もよろしくお願いいたします!