失恋した時の気持ちにもしも味がつくのなら、こういう味なんだろうか。近所のおばさんが庭で採ったというお裾分けのクランベリーを一粒放り込んだ。甘くて酸っぱくて、それから。
出来ることなら味わいたくないのに、いやに美味しく感じてしまう。きっとそういう風にからだが出来上がっている。
「真緒!」
通学路で私の声に反応した真緒はきょろきょろと周りを見渡してから、振り向いてこっちを責めるようにじとりと睨んだ。後ろ姿からして疲れていたので元気に声を掛けたのに、その目線はなんなんだ。
「なまえ、おまえな〜。いつも大きい声で名前呼ぶなって言ってんだろ?」
「ごめんごめん、真緒は一応アイドルだったね」
「一応じゃなくてれっきとした…つかそうじゃねえよ。普通にびっくりするからやめろって言ってんの」
私より少し背の高い真緒は、私の頭をぐりぐりと撫でつける。アイドルを目指して夢ノ咲学院に入学してからすぐに身長は止まってしまったらしく、それなりに大きい私とはあまり差がない。それなのに女なんだから気をつけろとか、最近は特に私のことを女扱いするようになってむず痒い。昔は夜まで一緒に遊んだのに、今は夜になっても真緒の部屋に居ると追い出されてしまう。私の気持ちはなんにも変わらないのに、真緒ばっかり大人になっている。
「学校はどう?生徒会長」
「どうもこうも。プロデュース科の生徒が増えてどこもかしこも大騒ぎだよ。あんずも大変そうだしな」
「…へえ」
去年からしきりに名前を聞くようになった女の子。真緒たちのユニットをプロデュースしている女の子。同じ年なのにすごい才能を持っていて、今の俺たちがあるのはあんずのおかげだって真緒から散々聞かされた。嫌だな、そんな女の子私じゃきっと構わないのに。なんで真緒の近くに居るのが私じゃないんだろう。真緒は誰にでも優しい。誰彼構わず世話を焼くしそれで沢山苦労している。だけど夢ノ咲に入ってちょっとだけ変わったような気がして嬉しかったんだ。自分のことを器用貧乏だなんて言う真緒がステージに立つ時は自信を持った顔をしていて、ああアイドルなんだなって思って嬉しかった。だけどそれは多分、あんずちゃんのおかげ。私はなんにもしていない。
「そうだ、今度また学院でライブやるんだ。見に来るだろ?」
「うん、行く」
「チケット取っといたからさ、ほら。最前」
「いいの?」
「いいに決まってんだろ〜?なまえは特別な」
特別扱いって時に残酷だ。真緒は優しいから、幼馴染として特別扱いしているだけであってそれ以上もそれ以下もないのに特別という言葉で心は浮き立つ。もらったチケットを鞄の奥にしまい込む振りをして、中に入っていたハンドタオルを力任せに握りしめた。どう足掻いたって私はあの子になれない。真緒という優しい籠に入れられた幼馴染のまま。
口の中でラズベリーの味がした。赤い実が弾けて、じゅわりと広がる。甘くて酸っぱくて、どうしようもなく惨めで泣きたい気分にさせられる。それでも嫌いになれないのは、きっと真緒の色と少し似ているからだ。甘くて酸っぱい、消えない香り。鮮やかな赤。真緒を見るたび、私はラズベリーを思い出す。