お風呂上がりに冷凍庫を開けたジュンくんの声がして、シンクに向かっていた視線を移動させる。肩にタオルをかけて、上半身裸のジュンくんがこちらを立っていたので思わずぎゃあ、と叫んでしまった。
「なんすかそれ…化け物でも見たような顔して」
「別の意味でこの世のものじゃないっていうか…服着てっていつも言ってるのに」
「ん〜?いい加減慣れてくださいよお。なまえさんの前ではかなり脱いでる気がするけど…?」
「そういう問題じゃないから」
大体アイドルなんだから撮影で脱いでいるくせに、私が照れるとわかっていてこういうことを言う。日和くんの影に隠れがちだけど、ジュンくんだって随分良い性格をしている。責めたところで育ちが悪いもんで、とかなんとか返されることはわかっているので口には出さないけれど。
「そんじゃありがたく、この抹茶貰いますねえ」
「え!ちょっとなんで!?ちゃんといちご味買ってきたのに!」
「はは、冗談ですよお。そんなに焦らなくても」
「アイスの味は重要でしょ」
「間違いないっすね。なまえさんは?食べないの?」
「食べるけど、洗い物まだ終わってないから」
「後でオレも手伝いますから。ほらこっち」
泡のついた手を水で綺麗に洗い流されて、そのままソファまで手を引かれた。テーブルには抹茶といちごのアイス、それからいつの間に用意したのかスプーンが2つ。
好きなものを食べる前のジュンくんは可愛い顔をしている。周りに花でも飛んでいそうなオーラを出して、口元を緩める。お気に入りのカフェのイチゴパフェを食べる時や、私がたまに作るジュンくんの好物を2人で食べる時。彼のその顔を見るのがいっとう好きだ。
「ジュンくん、ちゃんと髪拭きなよ。濡れてる」
「あー」
人のことはやたらと気にするのに自分のことは蔑ろ。仕方なくアイスを置いて、その癖っ毛をタオルで拭き始めた。ジュンくんはそれに反応することもなくアイスを食べている。なすがままとはこのことか。
「日和くんのことはあんなに世話焼くのにね」
「は?どういうことっすか?」
「意外とジュンくんはがさつだよねって話」
「まあそうっすね。普段おひいさんに気遣ってばっかなんで、そうなっちまったんすかねえ」
「日焼け止めとかスキンケアとかちゃんとしないと。髪だって痛むし」
「…なまえさん、最近おひいさんに似てきません?」
「そうかなあ」
粗方乾いたことを確認して、再び抹茶のアイスを手に取る。放置していたおかげで少し柔らかくなったそれを消費することに専念していると、ふとジュンくんがこちらを見つめているのに気づいた。レモンイエローの瞳と目が合う。付き合いは長いといえど、アイドルに見つめられると些か緊張するな。
「ど、どうしたの」
「いや、特に何もないんですけど」
「ええ?」
「幸せそうに食うなあって思って」
そう言っておもむろに私の頬を撫でた。付き合い始めた頃から、乱暴な物言いに反して私に触れる手はまるで壊れ物を扱うかのように優しい。触れる前、一瞬少しだけ不安そうにする顔を見て安心させる私の役目だった。
光を見つけてからは少しだけ自分に自信を持ち始めた彼が今、幸せそうにしているのが嬉しい。願わくばその理由に少しでも私が引っかかっていればいい。
「ジュンくんも幸せそうだよね」
「そうっすか?アイス食ってるからですかね」
「日和くんに食い意地張ってるって言われそう」
「まあオレはこんな時間に気にせずアイス食うなまえさんのそういうところが好きですけどねえ」
しっかり者に見えて意外とそうでないところや、アイドルらしからぬ行いをしているところ。笑い上戸なところ。意地悪いところ。全部全部ひっくるめて好きの言葉じゃ足りないくらい好きで、こればかりはジュンくんに負けられない。食べ終わったアイスの空の器とスプーンをシンクに運び、そのまま何も言わず私が中断した洗い物を始める背中を見つめて思う。