「ちょっと。きみ、そんな格好でぼくの隣に立つの?」
日和くんとの待ち合わせに遅れてしまった私を見るなり綺麗な顔を歪めて、信じられないねと呟く。この日のために美容院に行って、ネイルも変えて、今日こそはと思ったのに。
「仕方がないからぼくが全身コーディネートしてあげる。感謝するといいね」
「え、待って日和くん!」
日和くんは私に対して冷たい。付き合う前まではすごく優しかった。髪型を変えれば褒めてくれたし、メイクだって色を変えればすぐに気づいてくれていた。けれど今は気づいた後にずけずけとダメ出しをされる始末。元々物怖じなんて言葉を知らない人間だからいちいち傷ついてなんかいられないと思っていたけれど、最近は特に酷い。どれくらい酷いかと言えば、一緒にダメ出しを聞いていたジュンくんが「本当にあの人でいいんすかぁ?」なんて私の心配をしてくれるくらいには。
「ねえ。きみは最近ジュンくんと仲が良いよね」
「日和くんのことを相談に乗ってもらってるだけだよ」
「相談?そんなものぼくのことなんだからぼくに直接すべきだね!」
「えー…ファンの子にはあんなに優しいのに、なんで私には当たり強いのかなあって話をしてたの」
「きみはぼくのファンじゃなく彼女なんだから当たり前だよね?」
「彼女にも優しくしてよ」
「どうして?優しくしなかったところで、きみはぼくのことを嫌いにならないのに」
きょとんとした顔でこちらを見る日和くんは、とぼけているわけでもなくきっと本当に理解ができないのだ。日和くんの優しさは日和くんに近づけば近づくほど薄まっていく。明るくて太陽みたいな人なのに、決して無償の愛を向けるわけではない。たくさんの光の中に少しだけ差す陰に惹かれた。だからそれでいいって分かってはいるけれど。
「嫌わないけど、それでもたまには褒めて欲しいな」
「そういうもの?きみはめんどくさいなあ」
「私に関わらず、女の子はそうだよ」
「まあ、たまになら褒めてあげてもいいかもね。きみはぼくに褒められると嬉しそうにするから」
日和くんはいつも通りにこやかに笑って、颯爽と私の先を歩き始める。雑誌のランキングじゃデートの時はエスコートしてくれそうなんて言われているのに、その実決して私のスピードに合わせようとしない歩み。私は小走りで日和くんをただ追いかける。
「とりあえず、ジュンくんには今度から近づかないほうがいいね。油断してると食べられてしまうからね!」
「その心配はないと思う…」
「きみはぼくのものだってちゃんと分かってる?ぼくの言うことには従っていればいいの」
傍若無人な物言いに悲しくはなれど、それでも嫌いになれないのだから不思議だと思う。周りに彼のことを苦手な人は居ても、嫌いな人は聞いたことがなかった。愛を大事にするならば、その少しでも私を大事にして欲しいなんて思うのはわがままだろうか。