漣ジュン

※普通の大学生設定です。アイドルしてません




朝完璧に巻いたはずの髪の毛も、ビューラーで思い切りあげたはずの睫毛も、雨のせいで完全に取れてしまっていた。手持ち無沙汰なのを誤魔化すように美容院に行って切ったばかりの毛先をつい見つめる。代わり映えのしないいつも通りの髪色だけど、彼が似合うと言ってくれるから冒険することをやめてしまった。

睫毛と共に下がっていた私のテンションは、バイト先から出てきたジュンくんを見たことで少しだけ上昇する。我ながら単純だなあと思うけど、好きなのだから仕方ない。
ジュンくんは店から少し離れたところで待つ私を見つけるやいなや、少しはにかんでこちらに手を振る。携帯片手に小走りで駆け寄って来る姿にきゅんとする。

「待たせてすんません。カフェ入ってて良かったのに」
「ちょっと待っただけだから大丈夫。お疲れ様です」

そう言ってお辞儀をするとお辞儀で返される。礼儀正しい彼のことだから、上がりの時間を過ぎてもなかなか抜けられなかったに違いない。バイト先の近く、2人で行く予定だったカフェは雨のせいか人もまばらだ。


「……なんかついてる?」


メニューを見ているとふと視線を感じて彼の方を見る。何も言わずにじ、と私を見つめるジュンくんを見つめ返してみる。

「いや、別に何も」
「なんかすごい見られてるなあと思って……」
「嫌?」
「ううん、別に」

じゃあ良いでしょ、と言って頬杖をつくジュンくん。でも気になるものは気になる。今日は髪の毛もちゃんとしてないし余計に、あんまり見ないで欲しいと言うか。メニューで顔を隠すと、「ずるいっすねえ」と笑われた。

「そういや今日は髪の毛巻いてないんすね」
「…それ言う〜?」
「え、なんか地雷踏みました?」
「今日雨だから。ちゃんと巻いたけど取れちゃったの!」
「へえ。そういうもんか」
「ほんと最悪。朝早く起きてスキンケアして、髪の毛巻いて化粧して、睫毛あげて完璧だと思ってたのに」
「……はは、」
「なんで笑うの!?」
「いや、可愛いなあと思って」

急に可愛いと言われたものだから、驚いて言葉が出てこなくなってしまう。こう言うと私ばかり好きみたいで悔しいけれど、ジュンくんに何か言われるたびに私の感情は振り回されてばかりだ。例えるなら、大好きなアイドルから何か投げかけられた時のような。確実に認知されて、手を振られた時のような。多分そんな感じだと思う。付き合って随分経つけれど、いまだにジュンくんは格好良いしきらきらして見えるのだ。こんなこと友達にも言えないので胸の中にしまっておくとして。

「急にそういうこと言うのやめてよ〜」
「だって早起きして準備してんの、全部オレの為でしょう。可愛くない訳ないっすよねえ」
「…………」
「あれ、違います?オレの勘違い?」
「……そうだけど」

そうだけど、なんか負けた気がする。付き合ってから勝てたことないけど。
大学に入ってすぐ、隣の席になったジュンくんは見た目こそ怖かったけれど随分と優しい人で、すぐ好きになってしまったことを思い出した。なんか私ちょろくない?と悩みもしたが、「誰にでもあんな優しくしないでしょ。気になってたからっすよぉ」とけろりとした顔で言うものだから、敵わないなあと思ったのだ。

「でも彼女と一緒にカフェ入ってパフェ頼むジュンくんも相当可愛いよ」
「どうせ顔に似合ってないっすよ………」

彼と甘いものを食べる度に、ケーキやパフェは私の前、コーヒーやカフェラテはジュンくんの前に置かれる。店員さんが去ってから無言でそれを交換するのが恒例みたいになっていた。
今日だってそう。元々ここに来たいと言ったのはジュンくんで、大きいイチゴパフェが運ばれて来た時に目を輝かせていた。私はと言うと生クリームの気分ではなかったので、甘さ控えめそうなプリンを頼んだ。

「でもいいと思うよ。そういうの、ギャップ萌え?みたいな」
「ええ〜……そんな風に言われたことねえんすけど。馬鹿にされてません?」
「されてない、されてない。私はジュンくんのそういうところも好きだから」
「……へえ」

言った後に、あれちょっとはずかしいこと言ったな?と冷や汗をかいたけれど、ジュンくんの耳が苺みたいに真っ赤になっていたのでよしとする。初めて勝てたかもしれない。ていうかやっぱり可愛いな。
照れを隠すようにパフェを食べるジュンくんを見ていたら、髪の毛がストレートに戻ってしまったことも、睫毛が下がってしまったことも、新しい服が少し濡れてしまったこともどうでも良くなってしまった。

「単純だなあ」
「何が?」
「ううん、なんでもない。パフェ美味しい?」
「………また着いてきてくれます?」
「あはは、気に入ってるじゃん」



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