彼はエスコートがとても上手。
手を繋ぐのも、キスをするのも、全部、彼から。
このままでも心地良いけど、私だって彼をリードしたい!と意気込んだものの、やっぱり恥ずかしさの方が上回り……
「無ぅ理ぃ〜〜〜〜〜」
「ちょっと小夜、そんなうなだれないでよ」
「だあってサンジくん完璧超人なんだもん……リードなんてとてもとても……あと恥ずかしい」
「後者の方が強いんじゃないかしら?」
ナミにはたかれ、ロビンがクスクスと笑う。
女部屋でナミとロビンと恋愛トーク、って言っても話題はほとんど私とサンジくんの事だった。
「もうリードじゃなくていいからサンジくんをぎゃふんと言わせたい」
「目的変わってない?何したいのよあんた」
「トキメかせたい?……なんか違う気が……驚かせたい……?」
「そんなの後ろから抱きついてやりゃいいのよ!そうしたらトキメキも驚きもするわ!」
「恥ずかしいじゃん」
「恥ずかしがってたら何も出来ないんじゃないかしら」
「そうなんだけど〜」
うじうじする私にナミがティーポットを突きつける。
首を傾げると、空になったからおかわり貰ってくるついでに抱きしめてきなさい、とのことで。
「全然ついでじゃなくない?」
「いーのよ細かいことは。ほら、さっさと行きなさい」
「いってらっしゃい小夜、頑張って」
「まじでえ」
唇を尖らせながらもティーポットを受け取り部屋を出る。
後ろから抱きしめるか……やらないと女部屋入れて貰えなさそうだなあなんて考えてる間に、あっという間にキッチンの前にたどり着く。
なんとなく緊張して、扉をゆっくりと開く。
キッチンにはサンジくんしかいない様子で、仕込みをしているのかこちらにはまだ気付いていない。
「サーンージくーん」
「お?小夜ちゃ〜ん!どうしたんだい?」
小さい声で言ったにも関わらず、サンジくんはすぐに気付いてくれた。
紅茶のおかわりが欲しいと言うと、すぐ用意すると言ってティーポットを受け取った。
紅茶を用意してくれているサンジくんの後ろ姿をじっと見ながら、抱きしめるタイミングをうかがう。
火を使ってるから危ないかな……今飛びついたら茶葉が飛び散っちゃう……もしかしたらティーポットが落ちて割れちゃうかも……
なんて言い訳めいた事ばかりが浮かび、なかなか良いタイミングが見当たらない。
そんなうだうだしていたうちにサンジくんは紅茶を入れ終えたらしく、ティーポットをテーブルに置く。
「花いちごの紅茶です、レディ」
「ありがと」
お礼を言ったものの、まだ抱きついていないので帰るに帰れない。
ティーポットを取らない私を不思議に思ったのか、サンジくんがこちらを覗き込んでくる。
戻らないのかい?と聞いてくるサンジくんに、あー、とか、えっとー、なんて言いながら、この場をどうするか考える。
サンジくんがあまりにも心配そうにこちらを見てくるので申し訳なくなって、ええい女は度胸!ままよ!なんて思いながらサンジくんに飛びつく
「えっ、小夜、ちゃ」
サンジくんがなんか言ってる気がするけど、構わずにぎゅうぎゅうと抱きしめる。
一瞬だったかもしれないけど、すごく長い時間に感じた。
ぽかんとしてるサンジくんからババっと離れ、じゃあそういう事で!と言いながらダッシュでキッチンを出る。
そういう事ってどういう事だ!?って自分に突っ込むけどそれどころではない。
女部屋の扉を思いっきり開けたら怒られた。
「ちょっと!うるさいわよ!ドア壊れるでしょ!」
「うぇえ〜〜〜ナミこわあ〜〜〜」
「小夜顔真っ赤よ?」
「ちゃんと抱きついてきたんでしょうねー?」
「したよ!頑張ったよ!褒めて!」
「はいはいえらいえらい」
「よく頑張ったわね。あら?ティーポットはどうしたの?」
「え?あーーー!!!置いてきた!!!」