記号になって零れた言葉

「ねぇ、にんぎょってなぁに?」

舌足らずの少女の言葉に少女の頭を優しくなでていた老女は少しだけ撫でていた手を止めた。
人魚というのは水域に棲み人と魚の特徴を併せ持つという以外は、形状や性質が大きく異なる。
多くは伝説や物語として片付けられてしまうのだが、この村には遠い昔に人魚が居たという言い伝えがある。

遠い昔、とある男と人魚の女が恋に落ちた。
だが、誰も彼らを祝福などしなく二人は離れ離れになってしまった。
そんな時、人魚は男との間に子供ができていたことを知る。
その子供は人魚のように水中の中では生きることも出来ず、一見は人間のように見えるが、ある表情をしてしまうと人間ではないことがわかる。

「あるひょうじょう?」
「その子供はね、涙を流すとそれはまるで宝石のように綺麗な雫が流れるの」
「へぇ、それってさわれるの?」
「・・・えぇ、言葉の通り宝石だからね」

その子供の涙からは綺麗な色をした涙が出てきて、それは赤、青、緑といった具合に普通の子供では無いものを持っていた。
そして、その涙は子供の瞳から流れ落ちてそしてごとりと音を立てて地面に落ちる。
子供の瞳から出る涙は宝石になって流れる。
人魚はそれは大層悲しみ嘆きました。そして同時にこう願いました。
”どうか、この子だけでも幸せな日常を”と

「人魚の血を受け継ぐのは100年に1人になったの」
「じゃあ、にんぎょのちをうけついでいるひとがいるの?」
「なまえ、貴女が生まれて丁度100年になるのよ」

この時、当時何も知らなかったなまえは祖母の話を他人事のように聞いていた。
人魚、伝説、涙、宝石。それはまるで本当にどこかの絵本の中で描かれていることだと思っていた。
祖母が言った100年に1人と考えると、同い年の中に人魚の血を受け継いでいる人がいると考えられる。

「どうか、なまえに幸せな日常を」

祖母の悲しそうな顔は今でも忘れられない。
あれから、10年というのは短くも長くも感じられた。
なまえは祖母が静かに眠る場所に足を運ぶ、その手には祖母が昔から好きだという花を持って。

「あの話、本当だったんですね」

嘘のような作り話に私は耳を塞ぎたい気持ちに駆られる。
誰も知らないこの泉の近くに大好きな祖母は眠るっている。
何年も隠していた顔がここでは意味がないと言われてしまうように段々崩れていく。

「・・ふっ、うっ」

呆れるほど憎たらしいほど綺麗に流れ落ちる宝石たちを見ながらなまえはその宝石を睨む様に見る。
まるで己が人間ではないと指をさされているような感じだ。
誰もいないこの場所はあの人魚と人間の男が恋に落ち、そして離れ離れになった泉である。
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