「きゃぁぁぁぁ――!!」
「っ!?」
劈くような、空を覆う暗い雲にも届きそうな声が上がった。尋常じゃない声色に刹那走るは緊迫と動揺。
調査兵団に入って三度目の壁外調査。それでもまだ俺は、この外の景色をぶち壊すそれに慣れる事が出来ずにいる。
「――増援願います!!」
「…!」
その声は自分が良く知っている声で、こんな状況でもドクリと高鳴る鼓動。それを隠すように俺は、班員と共にその背中をすぐさま追った。
「……」
羽ばたく翼。目の前を行くそれはとても優雅に美しい。
初めて見たときから俺はそれに目を奪われていた。いつしか彼女は俺の憧れの人で、いつか彼女の班員として活躍したいと思っていた矢先のこの増援願い。…チャンスだと思った。彼女に俺を知ってもらう、絶好の機会。
「…二人既に殺られてしまった。今一人で部下が頑張ってる。私が残らなきゃいけないのに、その子、」
「急ごう。相手は奇行種か?」
「ええ。それと十メートル級が一体」
「……」
きっかけが欲しかったんだ。いつでも彼女の周りには人が溢れていて、あのリヴァイ兵士長でさえ一目置く人物。彼女を思うのは何も俺だけじゃない。増して新兵である俺が彼女に近づく隙なんてなくて、遠くから眺めるのが常だったから。
巨人は今でも怖い。でも、彼女の為なら何だって出来そうな気がした。ここで活躍して、彼女に俺の存在を知ってもらう。そう、俺はいつになく高揚していた。
−−しかし、
「――っ、しっかりして下さい…!!」
立ちこめる蒸気の中、その場でしゃんと二本足で立っているのは俺だけだった。俺の班長も班員も、一人残って戦っていた部下の人も、…そして、
「―――さんっ…!!」
彼女も。皆新兵である俺を庇い、巨人の餌食となってしまった。
「…っ、くそっ、救護班を……っ!?」
焦る心を連れてその場を去ろうとしたが、しかし俺のその動きを止めたのは彼女だった。
力無く握られた裾。行かないでというかのごとくの行動にドクリと高まる半面、自分の無力さに気付かされたような気がして。
彼女は俺から視線をそらすことなく口をパクパクと開けて何か言いたそうにしていたが、…それは一つも音にならずに空気に溶けていってしまう。拾いたくても拾えない。初めて俺だけに届けられる筈の、声なのに。
ずっと逸らされることの無い視線の先の俺は今、一体どんな顔をしているのだろう。ようやく向けられた彼女の目に映される俺は、今、
「っ、…!」
こんな筈じゃなかった。こんな結末望んでなかった。憧れの人との二人きりのシーンが最悪の光景となって己に刻まれていく。…チャンスだと思ったんだ。彼女に俺を知ってもらう、絶好の機会だった。なのに、
彼女のエンドロールに僕の名は無い
(その距離をも、埋めれぬままに)