「ハンジ分隊長おおおお!!」


叫びながらその懐に飛びつけば上からカエルの潰れたような声が(聞いたことないけど)聞こえてきたが気にしない。だって今私、それどころじゃないんだから。


「私っ!この前っ!部下から恋人に昇格しましたよねぇっ?!」

「っ、それがどうし、」

「なのにっ!酷いんですっ!ミケ分隊長っ!!」

「一体なにが、」

「今でも他の女の人にスンスンスンスンするんですっ!!!」

「……」


そこまで言うと今迄心配そうにしていた筈のハンジ分隊長の顔が呆れたものに変わった気がしたが気にしない。だって今私、それどころじゃないんだから。


「っ、ほら!!また!!」


噂をすれば何とやらなタイミングで現れた彼は今まさにその女の人にスンスンしている真っ最中。彼女という存在がありながら他の女にそんな破廉恥な行為を行うなんてけしからん。その女の人も嫌ならその顔ぶん殴ってやればいい、いや、寧ろ私がぶん殴りたいのは山々なんだが。


「〜〜〜!!」


ふぬぬぬ、と拳を振るわせる私の隣でハンジ分隊長の長い溜息が洩れたようだが気にしない。だって今私、それどころじゃないんだから。


「…あれは彼の癖だからねぇ。治そうとしても治らないでしょ。癖ってほら、無意識にやるから癖って言うんでしょ?」

「っでも!」

「あなたにもあるでしょ〜?癖の一つや二つ。彼が嫌がってるものもあるかもよ?」


今のあなたと同じようにね。正論だ。分からないでもない、いや、分かっている。それはただの嫉妬だ。私の癖の中で彼を嫉妬させるようなものなんて存在しないから。そんなフェロモンな癖、私が持ってるワケない。…だからそう、余計、


「で、でも!!あれでメロメロになる人が出てきたらどうしてくれるんですかあ!!」

「……私に言われても困るんだけど」


直接本人に言ったらどう。まるで頑張れとでも言うようにポンと肩を叩いて、ハンジ分隊長は背を向けて歩きだす。今までいろんな相談に乗っていてくれたのにそんな殺生なと思った、


「――何を言うんだ?」

「!!!」


その時。背後、いや首筋にかかった吐息にゾワリと何かが身体中を走った。


「み、ミケ分隊ちょ、」


事の元凶がすぐ後ろにいた事にたじろいで一歩後ずさろうとすれば、意地悪そうな顔をした彼と壁の間に挟まれ逃げられなくなった。…近い、近いです。心臓が破裂しそうです分隊長。


「…俺の"コミュニケーション"がお気に召さないらしいが、」

「……」


何故それを。と言おうと思ったが、冷静になって振り返ればかなりの大声でそれを叫んでいた事に気付いた。だってその時私、それどころじゃなかったから。


「しかし、それ以上の事は何もしていないだろう?」

「…そ、それ以上とは――っ!?」


何ですかと聞く前に。首筋に這うザラリとした熱い感触。思わず「ひゃっ」と声を上げればニタリと笑う彼が視界に入って、


「それ以上は、お前だけの特権だろう?」


ブワリと身体が熱くなって、それは目頭に集中した。視界がぼやける。からかうようにスンスンし続ける彼に私は今、




鼻の奥がツンとする
(スンスンの先は、私だけの秘密)




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