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「いや、それだけじゃねェ」

「!」

「世界を跨ぐ第一プロセスは何とかなるだろうが…しかし肝心の第二プロセスは今"冬眠中"だ」

「……」

「…だったらお前はどうやってこの世界へ戻ってきた」


…確かに、矛盾だらけだ。誰も知らない歴史を父は知っていて、唯一のルートは閉ざされているはずなのに、父は二ホンからこの世界にやってきている。廊下で話した際「戻ってきた」と、まるで夏休みの帰省のような感覚で言っていた。


「…それは、我々がある一族の末裔だからだ」

「一族…?」

「鍵の話と関連がある。…次は、そのカナロアという国に存在した"ある貴族"の話に移ろう」


問題なく貿易が続くことは稀だ。取引の価格、物品の量、質、対人関係。何かしらの騒動はつきものだと言ってもいい。しかし、カナロアの民はその場を話し合いで何とか取りまとめてきた。そうして何十年、関係を良好に保ち、他国と自国双方に利益と功績、絆をもたらしていった。
――だが、亀裂の入る出来事が起こる。


「元々カナロアは地球から派生した惑星―島国とされている。単独発信の国だ。どこの国とも交易せず、独自の文化を保ってきた。…だが、他国との交流を深めていくうちに、心を許しすぎてしまった」


貿易は国王が定めた、一定の場所でしか行われていなかった。国の内部まで侵入されることには抵抗があったのだろう。だが、誰かが王の承諾も得ずに異国の者を国内へと案内してしまった。
そうしてカナロアに眠る資源(財宝)に目が眩んだ者達は、この国ごと買収してしまおうと企てる。そうして、カナロアそのものの領土を巡る争いへと発展してしまった。こればかりは話し合いで解決は図れず、このままではカナロアという国が穢れてしまう。そう思った王は貿易を中止、断交すべきだと意を決めたが、…国は思いもしなかった局面を迎える。


「…その戦争に終止符を打ったのが、ヤムだった。天災を起こし、島そのものを壊滅状態にまで陥れたのだ」


このままでは島が地上へ落ちてしまうのではないか。そうなればカナロアの民が全滅してしまう。危機を抱いた王は、ある一族にヤムを封印するように命令した。


「"カイザー一族"だ」

「…カイザー…一族?」


カイザー一族はカナロアに存在した数点の貴族の中でも唯一王に遣える特別な家系で、特別な力を持っていた。異世界へとテレポートできる力―"レーフ"という能力を持ち、ヤムそのものを操る力を。


「テレポートに竜を操る…まるで魔法だな」

「あぁ、この世界にある悪魔の実とはまた異なる特殊な力だ。…だが、その力も一族の正当な後継者にしか伝えられなかった。悪用を恐れたのだろうな」


カイザー一族とヤムの歴史も相当古く、互いに敬意を払い共存してきたとされる。カイザー一族は国の守護神であるヤムを己等の家族同然とも考えていた。
ヤムを封印するのに多少の抵抗はあったものの、王の命令は絶対。それにこのままでは民が滅亡しかねない。カイザー一族は一時的にヤムを封印することに決めた。
…しかしその後、ヤムの処遇において、民は対立することとなる。


「国を滅ぼそうとしたヤムを生かしてはおけないという王と、守護神として余所者から国を守ったヤムの行動は正しかったと主張するカイザー一族。民の意見も双方に分かれた。……このままでは国内での争いに発展すると思ったカイザー一族は、致し方なくヤムをそのまま封印しておくことに決めたのだ」


だが、王の手先が箱を開けヤムを殺してしまう可能性は捨てきれない。よって、カイザー一族は知恵を絞り特殊な鍵を作成した。箱は王の元へ、フェイクの鍵と本物の鍵はカイザー一族が持つことでその場は収まった。


「島の状態が酷くいつか地上に落ちかねないと判断した王は、その後、カナロアの民とともに移住を開始する。…それが、ヤムがルートを設けた無人島―現、ワノ国の存在する島だ」


だが、移り住んだ先での国の再建は上手くいかなかった。地上に降りたのだから他国とも交流し、新たな国として創立するべきだと主張する―フレント派、今まで通り自国の力だけで繁栄し過ちを繰り返すべきでないと主張する―ワートン派(王含む)、どちらの立場にもつかない―ニュート派。いつしかその三派に別れ、民の中での派閥争いが何年も続くこととなってしまった。
今まで自分の命令に背くものなど現れなかったのに、地上に降りた途端に変わってしまった民の意識。王は嘆き、怒った。全ては貿易を始めた己の―否、カナロアという島、そして島を滅ぼしたヤムの責任だと。

そして王は、全てを意のままにすべく権力を駆使し始める。――フレント派の、根絶だ。


「王はフレント派で過激に活動していた者達、そしてヤムやカナロア―過去の歴史を口にする者、島から出ようとする者の抹殺を行うようカイザー一族に命じるようになる。……だが、カイザー一族は民に手を上げるなど出来る筈もなかった。…そこで、レーフの力を利用して、異世界―ヤムの創ったもう一つのルート―ニホンのとある島へと飛ばし、殺したことにしていたようだ」

「……」

「…これが、ワノ国とニホン…この世界が繋がっている真実だ」

「……そのニホンに飛ばされた側はさぞかし王と一族を恨んだだろう」

「…あぁ。知らない無人島に飛ばされ、知らない世界で生きていくことを余儀なくされたのだからな」


いつもの日常から突如異世界へ飛ばされる。また同じ明日が来ると、それが当たり前だと思っていたのに、絶望に振り落とされる。困惑、不安、恐怖。様々な感情が沸き起こるだろう。…それは、まるで、


「…ライも、そうして飛ばされた…ってことか?」

「……いや、違う。この世界に飛んだのは不可抗力と言っていい。――最初は私もそうだった」

「……どういう、こと?」


*


数年後。国からカナロアとヤムという言葉はいつの間にか消え、王の独裁は相変わらず続いたものの、いつしか空の上に居た頃のように平和な日常が戻っていた。
だが、カイザー一族から過去の歴史が消え去ることは無かった。…代々秘密裏に、その歴史を"正当な後継者"に継承していたのだ。


「……王からヤムを奪還するためか」

「そうだ。カイザー一族は一刻も早くヤムを解放してやりたかったのだろう」


正当な後継者は、簡単に以下に分類される。ヤムの統制者1人、統制者のボディーガードが4人、そして諜報員が数名。
統制者は代々女性に受け継がれ、護衛は男性と決められていた。ヤムは、女性にしか操ることが出来ないとされていたからだ。その者達だけが歴史を継承し、レーフの力についても教授される。そして、封印された箱の奪還に極秘で尽力し続けた。…だが、箱は一向に見つからなかった。
一族は諦めなかった。そうしてずっと、継承の儀を繰り返してきた。…とある、世代まで――



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