07



「――じゃあなライ!いい子でお留守番してるんだぞ!」


まるで我が子にでも言い聞かせるようなベポのその言葉に周りのクルーから様々なツッコミが入る中、ライは笑顔で手を振ってそれらを見送った。

あれから数時間も経たないうちに船は小さな島に辿り着き、船長とシャチ、ベポと数人のクルーが船から降りて行った。
メスのクマいねぇかなと言いながら歩くベポに横からシャチのツッコミが入る。…あのセリフはどの島に行っても言うらしい。

とにかくシャチもとい他のクルーも、いつになくテンション高く街の中へと消えて行った。みんな街へ繰り出すのが唯一の楽しみなのだろう。
…だから、いつもならローのお供で必ず船を降りるであろう自身の横に立つ人物も、それを楽しみにしていた筈なのではと、ふと思う。


「…ペンギンは本当に行かなくてよかったの?」


ライがそう問えば、船長命令だからとペンギンは言った。たまには船に残るのも悪くない。と逆に自分を気遣うように言われて、なんだかライは申し訳なくなった。


「それに俺も、お前をここに一人置いて行くのには反対だしな」

「……?」


それを聞いて、ローがペンギンの側にいろと言っていたのを思い出す。自分を1人にする事を2人とも拒んでいるのがそこから容易に伝わってくるが、2人とも何をそんなに懸念しているのだろうか。やはり自分はまだ、疑いの余地があるということだろうか。それはそれで少しショックだが、ペンギンが残ってくれてよかったと思っているのが正直なところではある。…自分、人見知りが激しいもんで。


「ま、この島には物資の調達で寄っただけだから、みんなすぐに戻ってくるだろ」

「……それだけであんなにテンション上がる?」

「今宵は宴をするそうだからな」


出ました。海賊の醍醐味、宴。皆その為の酒の買い出しに行ったそうだ。そりゃあテンションが上がるのも納得だが、何の変哲もない日常でも宴をするんだなと少し感心した。よほど宴が好きなのだろう。毎晩毎晩飲みに出かけるサラリーマンと気持ちは同じなのかもしれない。

夜まで時間があるから好きなように過ごしていればいいとペンギンには言われたが、じゃお言葉に甘えて部屋でゴロゴロ…なんて出来るはずもなかった。そんな身分じゃないことは自分が一番良くわかっている。この船では自分は一番格下だ。雑用係として船に置いてもらっている以上はその任務を果たすのが筋だろう。

そうして暫く考え込んだペンギンは、ライに風呂掃除の任務を課してくれた。初任務を言い渡されたライは張り切るように風呂場へと向かった。…のだが。


「……ライ、そっちじゃない。手前を右だ」

「…っえ?」


早々迷子な自分、プライスレス。


「…ふっ、」


間違えたと言いつつ照れ臭そうな笑みを残して角を曲がって行ったライに、ペンギンは一つ笑ってしまった。
何故だろうか。一つ年上なのにペンギンにはやはりライは年下にしか見えない。ダボダボな着ぐるみを着ているのが余計にそう感じさせるのか。…それとも。

そんなことを思いながら、ペンギンはその小さなベポの後を追って行った。



***



「――キャプテン、これは?」

「却下」

「っこれ!これがいい!」

「却下だ」

「…………しゅん」

「声に出して言うな。ったくお前はセンスがねェな」


スイマセン。なんて別に怒られているわけでもないのに謝るベポと、そんな彼に呆れ顔を向けるローがいるのは服屋―しかも女性モノの店。…もちろんライの服を買うためにそこにいるわけであって、別に変な趣味を持っているワケではない。

入って瞬間ニコニコと駆け寄って来た店員を邪魔だと一蹴し、とりあえずベポにライに着せる服を選ばせて数分。…本当はすぐにでも出るつもりだったのに、ベポが選ぶ服ときたらセンスのない花柄やドットといった本当に女の子らしいものばかりで、それが気に入らず全てに駄目出しをしていたら結局は自分が選んだ方が早い事にローはようやく気づいて服に手を伸ばしていた。

別に何でもいいはずだった。彼女が何を着ようが自分には関係ない筈なのに、そんな格好で船内を歩かれると目障りだとか、クルー達の目にはある意味毒だとか、…そんな格好は自分の隣に相応しくないだとか、そんなことを考えてしまってる自分がそこにはいて。
らしくない。そう思った。たかが女1人の服選びにどうして自分が。…なんて、今更な後悔は死んでも口には出来ないのだが。


「ライはこういうの絶対似合うと思うけどなぁ」

「…………なら、一つくらい買ってやれ」


ただの気まぐれだ。別に自分好みに仕上げたいわけじゃない。そういう意向を含めるかのようにローはようやくベポの意見に賛同を示し、会計も任せてそそくさとその店を出て行った。



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