08



「――たっだいま〜!」


風呂掃除を終えたところでロー達が帰ってきたとセイウチから告げられて、ペンギンと共にライは甲板へと出た。

バーゲンにでも行ってきたかと思うほどに紙袋をかかえたベポは疲れたと言いながらも楽しそうな表情をしていたが…その後ろから現れたローは疲れたと言葉通りの顔をしている。


「あ、ライ!こっちこっち!!」


自分に気づいたベポが嬉しそうに手招きしたのでその方へ歩み寄れば、その場で紙袋を広げ買ってきた服を甲板の上に並べ出そうとするベポ。福袋を買ってその場で開けるお客さん状態な彼に、部屋に運んでからにしろとローの一喝が飛ぶ。…確かにここで全てをお披露目されるのは大変かもしれないと思い、ライも運ぶのを手伝うと言って2人で部屋へと向かった。


「…これ全部、ウチの?」

「うん!女の子は毎日服を変えなきゃ気が済まない生き物だってキャプテン言ってたしな!」


そうして広いベッドの上に紙袋から出した服を並べていくベポ。全てシンプルで、カジュアルな感じの服ばかりだった。


「……これ、ベポが選んでくれたん?」

「違うよ、キャプテンが選んだんだ。おれが選んだ服は全部キャプテンに却下されちゃって…っあ!そうだ!!」


一体どんな服をチョイスしたんだベポは。しかし目の前にある服はどれも自分が好んで着るようなものばかりだった。言ってもいないのに自分に合う服を見立てるローは、さすがというべきだろうか。


「でもこれはおれが選んだんだ!おれからのプレゼント!」


そう言ってベポが取り出した服は、花柄の可愛らしいキュロットスカートとそれに見合うカットソー。ベポもなかなかセンスあるなと思ったが、正直言ってそういう女の子らしい服は未だ嘗て着たことがなかった為、多少困惑。けれどもベポにとって自分は女の子らしく見えているのかと思うと、なんだか少し照れ臭いのもいなめない。


「船長には却下されたけど、絶対ライに似合うと思うんだ!」

「…こんな可愛いの、似合うかな?」


手にとって体に合わせてみる。これも初めての試みだ。鏡が無い為全体像は見えなかったが、ベポは大絶賛してくれていた。


「――…派手に散らかしたな」

「「!!」」


するとそこへローとシャチ、セイウチまでもがやってきた。…何故シャチやセイウチがやってきたのかは謎だが、ライはわざわざその足を運んでまで服を買って来てくれたローに礼を述べるのを優先する。


「こんなにたくさん…ありがとうございます」

「…あァ、気にするな」

「うひょー船長太っ腹っすね!」

「けどシンプルな服ばっかりだな〜。…船長センスないなぁ。ライちゃんにはもっとこう露出の高い――」

「そんな格好させたらお前発情するだろーが」

「おっ、この紙袋は下着っすね!!」


何の躊躇もなくシャチが一つの小さめの紙袋を掴みそれを開け中身を出すと、セイウチが待ってましたとばかりにそこへ駆け寄っていく。…まさかこの2人、これが目的か。過激なものだったらどうしようと思いつつライもそれに目を向けたが、至って一般的なデザインのものばかりでライは少し安心した。
…というより、下着まで買ってきてくれるなんて思っていなかった。服はだいたいのサイズはわかるだろうけれど下着のサイズは――


「……、」


…ライの頭の中で、何かがひっかかった。


「ライお前Dもあんのか?!」

「意外だろ?」

「…着痩せするタイプ?ちょっとその着ぐるみ早く脱いでよ」


どさくさに紛れて変態発言をしたセイウチは置いといて。何かがおかしい。何か腑に落ちない。下着のサイズはアンダーまでジャストだったが、問題はそこじゃない。自分は一言もローにそんな発言をした覚えがない。イコール、彼がそれを知る術などどこにもなかった筈だった。…なのに何故、何故だ。何故それをローが知っている。


「…ちょ、ちょっと待って!」

「「?」」

「……なんでサイズ知ってるんですか…?」

「「……え?」」


ポカンと口を開けて静止するシャチとセイウチ。ベポは話の意図がわかっていないのか違った意味でポカンとしている。…そんな中ローだけが平然を装っているなんとも奇妙な光景は、それでも一瞬だけだった。


「…まさか船長…!!」

「何だよ船長!!やっぱ抱いたんじゃないっすか!!」

「…あ?抱いてねェっつっただろ。俺は触っただけだ」

「さっ、!?」

「「それでもずるい!!!」」


ちょっと待てwait wait waiting(?)だ。触っただって?いつ、どこで、どのように。…はっ、まさか、寝ている間だろうか。後ろから羽交い締めにされていたあの朝、目覚めるまでの空白の時間にだろうか。


「っ〜〜!!」


…最低だ。この船長もこの2人同様、変態だ。
そうしてライが恥ずかしさのあまり顔を両手で覆うと、耳に入ってくるはクツクツとその変態が笑う声。


「…冗談だ。心配しなくても触ってねェよ」


誰がそんな貧乳触るか。とローはまた違った意味で追い打ちをかけてくる。ただライが熱で倒れた時、聴診器を当てるために服を脱がせた際に見ただけだとローは言った。

下着を見ただけで大体その大きさを把握出来るのが俺の特技だとか自慢し出し、それに変態2人が食い付きだして話が変な方向に逸れていく。…数秒後には大分そちらで盛り上がっている始末。


「…………」


…海賊って一体。海賊って心は中学男子生徒並なのかもしれない。そういえばあの漫画の中でもそんな節があったような、なかったような。
それはさておき…もうこの3人、放っておいていいだろうか。

ライは話についていけてない…いやついていかせたくない純粋なベポと共に、広げた服を片付け始めた。



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