「――はいっ、次船長の番〜!」
ある夏の日の夜。ライ、ペンギン、ロー、セイウチ、ベポ、シャチの6人は晩飯後キッチンに残って雑談をしていた。
その日は特別暑い日で夜になってもあまり涼しくならず、いつしかその雑談はその打開策を考える話し合いと変わっていた。…のだが。
「え?まだ続くの?」
「あ、俺ちょっとトイレ、」
夏といえばアイス。夏といえばスイカ。夏といえば…と逸れた方向に話が進んで。最終的に落ち着いたのが、…夏といえば、怖い話。
「船長のは怖そうだなぁ〜…シャチと違って」
「シャチの話はオチが丸わかりだったからな」
そうして何故か始まった怖い話大会。どうせやるなら本格的に、と甲板に出て皆で一つの灯を囲むように円になってそれは開催された。…ここはどこかの寮ですか。
「うん、おれ全然怖くなかったもんな。…ね、ライ?」
「…え?…あ…うん、」
堂々とトップバッターを飾ったシャチがトイレに行っている間の酷いその言われようはさておいて。結構それもビビりながら聞いていたライは実際怖いものが嫌いであるが、だからといって今さらこの場を離れられそうにはなかった。何故かって?…そりゃもちろん一人で部屋に戻るのが怖いからである。
「あの日もこんな暑い日だったなァ…」
そうしてローの話が始まった。少し前かがみになって結構本腰で話し始める彼は怖がらせる気満々の様子で。その顔と低い声がより怖さを倍増させ、ライは膝をかかえて話を聞いていた。
「俺は涼もうと甲板へと足へ運んでいた…」
「……」
「甲板に出たのはいいがなんか胸騒ぎがしてなァ…」
「…………」
「振り返ると、……あァ、ほら今みたいに、」
「「……?」」
何気ないローの言葉と彼が指差した方向―ライの背後を自然と振り返る一同。
「っきゃーーーーー!!!!!」
「っぎゃーーーーー!!!!!」
その瞬間、ハートの海賊団の船上に大きく二つの悲鳴が上がった。
「「…………」」
「っ……なんだ、シャチじゃん!」
一同が振り返って目にしたもの。それはさきほどトイレへと消えたシャチ―の生首だけだった。…仲間の頭部が急に目の前に現れるなど、こんなの何処ぞのホラーよりも恐怖であろう。
ペンギンやセイウチはさほど驚きを見せなかったが、先ほど声を荒げた若干二名―ライとベポは恐怖に慄き、それぞれが隣にいた人物にしがみつ…いや、抱きついている始末。
ローはトイレに立ったシャチを見て即座にその余興を思いついていたようだ。ローが能力を発揮していたのには誰もが気付かず、皆が彼の思惑に嵌められたと言うわけである。
「はっはっはっ!やりましたね〜船長!」
ちゃっかり利用された立場のシャチは何故かしてやったりな顔をしていた。…生首のまま。
「…………船長、悪ふざけがすぎるんじゃないですか」
ペンギンは腹を抑えて笑う船長に深い溜息を送ったが、実際彼は今それにお説教を食らわせる余裕などない。何故かって?…そりゃ、自身の右腕にガッチリとしがみついている女のせいである。
「っつーかペンギンずるい!オレライちゃんに抱きつかれる為にここに座ったのに!!」
ライは左にペンギン、右にセイウチに挟まれて座っていた。そして生首事件が起こった瞬間、ライは咄嗟に左にいたペンギンにしがみついていたのだった。
何故そうなったのかは恐らく本人も気づいていないだろうが、…きっと右隣は危険だと本能が察知していたのかもしれない。
「…………お前な、」
そんなセイウチの願いも虚しく、よりによって彼に抱きついたのは彼の右隣にいたシロクマだった。子グマならまだしもこんなデカイクマに抱きつかれても嬉しくないと言うセイウチに、ベポはデカくてスイマセンと謝っている。
その光景にようやく今の状況に気がついたライ。…自分はその頼りになる右腕に、ちゃっかりまだ抱きついたままだった。
「っ!ごめ、ペンギン!!」
そうしてペンギンの腕から瞬時に離れ、なんてことをしてしまったんだとしてしまってから後悔―というよりも気恥ずかしさに襲われて。ライはローの話を聞いていた時のように、膝を抱えて今度はそこに顔を埋めてしまった。
そんな彼女を見ながら、とんだ船長の遊び心にいつもなら呆れてしまうペンギンも、…何故か今はそんな気にはなれなくて。
「……いや、気にするな」
寧ろこの時ばかりは、…そんな遊び心も悪くない、だなんて。
「……、」
思ってそして緩む頬を、けれども誰にも悟られないように。ペンギンは、深く帽子を被り直した。
彼女が離れて去った熱。…けれどもまだその右腕には、その温もりが残っているような気がした。