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「ではこれから第四回ハートの海賊団井戸端会議を始めまーす」


高々と宣誓をかましたシャチのそれにクルーから「今まで三回も会議をやった記憶がねぇ」だの「井戸端会議の意味がちげー」だのと野次というなのツッコミが入るのを当の本人は気にも止めず満足気でいるもんだから、あぁこの人本当に馬鹿なんだなとライは呆れ呆れ一つ息を吐いた。


「本日の議題はこれであります!」


ババーンという効果音はもちろんシャチの口から盛大に発せられ、スケッチブックが一枚捲られる。…というよりそのスケッチブックどっからもってきたんだと誰もつっこまないのが不思議だが自分もつっこまない。


「『ライの風呂の見張り番はベポじゃなくてもいいんじゃないか』という意見です!」

「…………」


ウオオォォという歓声と共に熱の上がるクルーを他所に冷んやりとした空気を醸し出しているのはライだけでなく、あからさまに隣で大きなため息をついたのはこの船で一番マトモな男。
ボソリと「よくそんな議題を承諾したな」とそのまた隣にいる船の長に言えば「面白そうじゃねェか」なんて浅すぎる理由にペンギンは頭を抱えたくなった。…この船こんな感じで大丈夫なのだろうかと。


「さぁ皆さんこれについて何か意見があれば!」

「…そもそも何故ベポじゃなくていいという案が出た」


そうであっても、しっかりとペンギンはそれに参加していた。彼女の事となると冗談も冗談に聞こえなくなるのがこの男の特徴でもある。

そんなペンギンの冷ややかな意見に、すっと挙がった一つの手。…挙手制なんだ、と他人事のようにライはその人に目を向けた。


「はいはい!議題主であるセイウチさんどうぞ!」


やっぱりコイツが首謀者か、とペンギンだけでなくライも呆れた顔をその方へと向けていた。
…というよりシャチは一体何故そんな喋り方になっているのだろう。誰かのモノマネなのだろうか。よく分からない。


「見張るだけでしょ?それなら誰がやったって一緒じゃん?」

「お前らが変な気起こさねえようにだろーが」

「ライちゃんがこの船に乗ってどれだけ経ったと思ってるの?もうそんな気起こすヤツいないって」

「……だったらこの議題を上げた理由は何だよ」

「ベポが見張りをしている間、彼は手持ち無沙汰なワケじゃん?ベポだってそれなりに仕事があるわけだし、毎日毎日それに時間をとられてちゃベポが大変だろうと思って」

「「ヒュー!セイウチやっさしー!」」

「ベポさん!そんな意見がありますが如何ですか?」

「え?おれ?…おれは別に、」

「ベポは優しいからね。優しさの塊寧ろ優しさでしか出来てないからね。そう言うのはお見通しさ。だからこうして第三者が意見を出してるんじゃないか」

「「そうだそうだ!!」」

「……」


コイツ、用意周到だな。何が何でもベポを見張りの座から引きずり下ろすつもりのようだ。…その本気度もっと別のところに使ってはくれないだろうかとペンギンは切に思う。


「俺は全力で見張り番するぜ!!」

「それおれが全力でしてないみたいじゃんか!」

「お前はクマだからな!!」←?

「…クマでスイマセン…」

「まぁ待てお前ら、ここで争ったって拉致があかねぇよ。……本人に聞くのが一番じゃねえのか?」

「!」

「そうですね!今まで黙秘を続けられていたライさん!あなたの意見で全てが決まります!!」


一斉に自分に向けられる目。こ、こわい。真剣すぎる。


「…………確かに、毎日毎日ベポを待たせてるのは申し訳ないと思ってるけど、」


そうだろう、そうだよな。と押しかけてくるようなクルー達のこの気迫は何なのだろう。そもそもこの議題必要あったかと今だに思ってるのは自分だけでしょうか。見張り役がそんなに重要視される意味が分からないのも自分だけでしょうか。…やっぱり男って分からない生き物だ、なんて。


「……だからさ、今度からは」

「「うんうん!」」


きっとクルー達は次の言葉に己らを期待していたのだと思う。彼らの顔がもうこの上なく和かであるのをペンギンは些か蔑んだ目で見ていたが、…ライから発せられた言葉は彼らの想像の範疇には無いものだった。


「ウチとベポが一緒に入れば一石二鳥じゃない――?」



*



カポンっ、


「……あーあ、失敗した」

「だからシャチが司会するのは反対だったんだ」

「そこか?反省するとこ寧ろそこなのか?」


お風呂場から聞こえてくる楽しそうな声を背に、意気消沈した二人の男はトボトボと廊下を歩いていた。


「ちょっとくらいよー、俺らにも"幸せ"分けてくれたっていーじゃんよー」

「そうそう。ある程度の"刺激"は必要だっての」


負け惜しみかただの変態発言かはさておいて、セイウチ発信の『ライのお風呂の見張り番やり隊』は呆気なく誰にも知られる事なく解散となった。


「後でベポに感想聞こう」

「当たり前だ」


…そうして早速それを試みようとした二人だが、健全たる副船長のお怒りをくらったのは言うまでもない。



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