ウィン_
「!」
恐る恐る入ろうと思っていたその部屋の扉の自動さ加減に少々ビクつきながら、アイルは少し薄暗い小さな会議室へと足を踏み入れた。
入ったはいいが呼び出した当の本人が見当たらない。…まさかすでに訓練とやらが始まっているのだろうか。こんな狭い会議室で何をするつもりなのだろう。訓練は会議室でするもんじゃない。現場でするもんじゃないのか。←
「……はあ、」
「いきなりため息を吐くな」
「!?」
てっきり誰もいないと思って盛大に吐いた溜息はしっかり上司の耳に届いていたらしい。つうか何時の間に。つうかいつからいたんだ。
「いるならいる言うて下さいよ!」
「まぁ座れ」
そうとだけ言って会議室の電気をようやく付けたツォン。少し眩しくなった視界を気にしつつ適当な席に座ったアイルだが、暫くして何で座っているのだろうという疑問に悩まされた。
「…あの〜、」
「なんだ?」
「…今日、訓練っすよね?」
「あぁ。そうだ」
そうケロっと言ってのけるツォンもアイルの目の前に座った。一体今から何の訓練が始まるんだろうか。こんな密室で上司と二人きり。密室に上司と二人きり。…きっとレノが聞いたらあれこれ言われること間違いない。
「こう…訓練って体を鍛える系のヤツじゃないんですか?」
「そういうのはアイツらの役目だ」
「……」
確かに昨日レノには鍛え上げられた(いろんな意味で)。
「じゃあ今日は?」
「私からは心得を話そうと思ってな」
どうせろくに社長からこの会社の事についてなど聞いていないだろうというツォンの言葉に激しく頷いたアイル。なによりツォンの訓練など専ら厳しいと予想していた為、それを受けなくてよいと思えるだけでありがたかった。
しかし少し楽しみにしてた事もある。もしかしたらツォンの必殺技が見れたかもしれないのに。そうそれはあの額から放たれるきっと出す時に決めポーズとかもあったりするそれを。
「…またよからぬことでも考えているのだろう?」
「え?!あは、んなまさか」
…図星。
そうして有難いツォンのお話が始まった。ちょっとしたタークスの歴史。ツォンが入ってからのタークスの事など、いろんな事を聞かされるのだと思った。タークスとして自分がどうあるべきなのか。何が一番で何を優先すべきなのか。まさにタークスとして仕事をプロフェッショナルにどうこなすか。きっと真面目だけが取り柄のツォンのことだから、それはそれはためになる話をしてくれるんだと。
…しかし。
「あのデカイのはダメだな。社長の飼っている犬の方が100倍利口だ」
「……はぁ、」
「大体あのケバケバしさが神羅の女の風紀を乱していると思わないか?」
「…あぁ、それはごもっともな事かと」
「大体社長も社長なんだ。あの人は我儘がすぎる」
「……」
私は今この会議室で何をしているのだろうか。訓練というなの心得を聞かされるのではなかったのだろうか。…なのにツォンの口から出てくるのは仕事の愚痴、愚痴、愚痴。次から次へと溢れ出てくるそれは、止まる事を知らない。ガハハやキャハハ、研究バカなあの人から神羅我儘トップに至るまで底なしにでてくるそれはイリーナに引けを取らないマシンガントークっぷりである。…女子か。頼れる尊敬できる我が上司は女子か。こんなことならファミレスでドリンクバー片手に聞いていた方が幾分楽である。
「最近医者に通う事が多くなってな」
「ストレスですね」
「額も広くなったきがするんだ」
「ストレスですね」
こんな自分に愚痴をかたるなんてよっぽどだ。…あぁ誰か、彼を助けてやってくれ。そして永遠愚痴を聞かされる私をも助けてくれ。
いろんな意味で疲れる訓練は、ツォンの気が済むまで続くのであった。