三日目。




「……、」


あぁ、いよいよ本格的。さすが真面目だけが取り柄な坊主頭など思いつつ、アイルはその坊主頭とミッドガルを離れた近くの森の中にいた。

今までろくな訓練がなかった為か、アイルはいささか気を抜きすぎていた。まさかミッドガルを飛び越して森の中にまで足を運ぶなんて思いも寄らない。こんな長閑な森の中で一体どんな訓練を行うと言うのだろうか。きっとその真面目だけが取り柄な坊主頭の事だから、これでもかというくらいハードでアクティブな事に違いない。…あぁ、こんな事なら女子会並みの上司の愚痴を永遠聞かされていた方がまだマシかもしれなかった。


「これから射撃訓練を行う」

「…射撃?」


タークスたるもの、獲物を逃すべからず。タークスたるもの、獲物は一撃で仕留めるべし。そうかっこよく語りながら後ろで腕を組んでアイルの前を行ったり来たりしだしたルードに、アイルは二日前の赤毛を重ねていた。…前言撤回。今度もろくなことがなさそうだ、と。


「この森に住むモンスターや動物で実践訓練だ」

「え、」


そうして渡された、拳銃。それが偽物でなく本当である事は、その重みから十分わかった。
…そして、悟る。自分はこれから本当に、この手で殺める行為をしていくのだと。


「まずは小動物から。上手く殺れる事が出来たら次はモンスターに移る。モンスターを難なく殺れるようになれば、訓練は終了だ」

「……」

「…何か質問は?」

「却下」

「……は?」


予想外の答えが帰ってきた事に驚いたルードがその足を止めると同時、トレードマークのサングラスがその顔からずり落ちた。


「きゃ、却下?」

「百歩譲ってモンスターはエエわ。あいつらは人を襲うからな」


それは自分の身を守るために、必要不可欠。いくら平和主義な自分であってもそこは重々理解している。


「でも、動物虐待はアカン!!動物愛護家からクレームくるで!!」

「は?」


アイアム動物大好き。そんな自分が動物を殺めるなんて、もってのほかである。タークスは闇だろうが非道だろうが何だろうが、んな事知ったこっちゃない。


「いたいけな動物たちを殺すなんてウチには出来ません!」

「いや、しかし」

「どうしても殺れってんなら、ウチはタークス辞めさせて頂きます!!」


そう言ってぺこりとお辞儀をして帰ろうとするアイル。まさに亭主と喧嘩して実家に帰らせて頂きますな状態に、別に亭主でもなんでもないルードは何故かタジタジだった。


「わ、わかった。……仕方ない、こうしよう」


そうしてルードはポケットから別の銃を取り出した。


「?」

「ペイント弾だ」


それは先ほど渡されたモノよりも少し軽量なもので。


「っなんやねん!あるなら最初からこっち渡してくれたらええやん!」

「……すまない」


どこか押され気味のルード。…実は彼も尻に敷かれるタイプなのかもしれない。


「これならまだマシやな。…中のインクは水性?」

「いや、違う」

「えー、ほなそれこそ虐待みたいになってしまうやんかー」

「…そこは勘弁してくれ」


今だに不服そうな顔のアイルは、しかしその銃を構える仕草を取り出していた。ようやく訓練が開始出来る事に、ルードは一つ安堵の息を漏らすのであった。



*



「――…」


そうして、地味な訓練が始まった。物陰でひっそりと息を凝らし、ひたすら小動物が現れるのを待つ。ルードはその周りでモンスターだけを狩っていた。自分の訓練の邪魔になっては元も子もないからだ。


「お、ウサギさん発見!」


パンッ――!!


「あれ、」


放った弾はウサギさんの尻尾を掠めただけだった。やはりそう簡単にはいかない。どうやらこれは真剣にせねばならぬようだ(最初から真剣にやれ←)。


「…お、鳥さん発見〜」


次に見つけたのは、一つの枝に止まっている小さな鳥だった。いささか焦点が合わせずらいが、慎重に狙いを定め銃の引き金を引いた。

…のだが。


ペチンッ――!!


「っ!?」


引いたと同時に目の前に現れた黒。そして、響いた何とも滑稽な音。


「……あ、」


そしてその黒の上の物体に広がっていく、ピンク色。


「「……」」


ギギギといわんばかりにスローテンポで振り返ったそのサングラスの奥の瞳が引きつっているのが容易にわかった。アイルが発砲すると同時、ルードがそこを横切ったのだ。そこにアイルがいる事に気がつかずに。…どんなタイミングだ。撃ってしまったではないか。彼のトレードマークでもある、その頭部を。ピンク色に染めてしまった。…可愛い可愛い、ピンク色に。


「…あはっ、」


何とも言えぬ滑稽な姿に。いかついルードが染まった不釣合いなピンク色に。込み上げてくるは謝罪の言葉よりも、溢れそうな程の笑いで。
その間に、小鳥は飛び去っていってしまった。チュンチュンと鳴くその様は、まるでそれを嘲笑っているかのようで。


「あは、あははははは――!!」


それが合図となって、笑い転げ始める女が一人。


「……笑うな」


お前のせいだろう。…何で俺がこんなハメに。何で俺が、こんなハメに。



「…訓練中止だ」


頭を洗ってくる。ルードが悔し紛れに放ったその言葉は、より一層増していくアイルの笑い声に掻き消されてしまうのであった。



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