今は長い長いお昼休み。
たいして仕事もなかったクラサメは、珍しく0組の教室でその休みを過ごしていた。ついでにチャイムのギリギリで席についているというナインをとっちめてやろうという狙いもあった。
窓際に腰掛け、読みかけていた本を開く。春の暖かな日差しと風が心地いい。
しかしクラサメはいささか本に集中できなくなっていた。…その原因は、目の前にいる女のせいだった。
「…なにをしている」
クラサメの問いかけに怠けた声で答えるアイル。彼女はクラサメを振り返る事なく、教壇の上に乗っているトンベリを凝視―いや、トンベリと見つめあっていた。
「微動だにせんなぁ?」
「…」
「何考えとるんかなぁ?」
「…さあな」
「隊長はトンベリと会話出来るん?」
まったく何を言い出すんだこの女は。クラサメは一つため息をつくと、読んでいた本パタンと閉じた。
「…出来ると思うのか?」
「出来たらステキやん?」
「あいにく私は普通の人間なのでな」
「な〜んや。おもんな」
アイルはそう言ってツルツルなトンベリの頭を撫でた。
気のせいだろうか、クラサメはいささかトンベリが嬉しそうに目を細ばせた気がした。
「アイルなら会話出来そうだが」
「…今頑張ってんねんけどなぁ〜」
会話しようとしていたのかと、クラサメはマスクの下で一つ笑みを零す。
すると急にアイルがクラサメの方を振り返る。
「…今笑ろたやろ?」
「…そんな事はない」
「ホンマに〜?」
「ホンマ、だ」
「…あ。今ウチの方便馬鹿にしたやろ?」
「…そんな事はない」
「そればっかし!なぁートンベリ?」
振り返って目を向けたトンべりが、コクンと一つ頷く。
「動いた!動いたでなぁ!!!」
「そりゃ動くさ。生きているんだからな」
クラサメにもう一度向き直ると、彼はまた一つ笑っていた。今度は見た。確実に見た。隊長も笑うんだな、とアイルは思った。
今まで見た事ない隊長の一面を自分だけが知った気がして、アイルはなんだか嬉しくなった。