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 二年になりはじめての席替えで、早々にくじを引き新しい席についた俺は「さて俺の隣に座るラッキーガールは誰だ」とカチューシャの調子を整えながら待っていた。ざわつく教室の中静かにそこに腰を下ろしたのはミョウジさんだった。

「よろしくミョウジさん」

 俺がそう言って手を差し出すと彼女は「ああ、うん。よろしくね」と言って手を重ねてくれた。

 なんとなく調子が狂う。

 ミョウジさんとは特別関わりはないがお互いクラスメイトとして認知していて教室や廊下であった時に挨拶を交わす程度の仲だ。
 ミョウジさんはスタイルが良くて美人だと評判だが、少しギャルっぽい見た目と気怠げな雰囲気が近寄りがたいオーラを放っていて集団の中だと少し浮いている。かといって人付き合いが下手なわけではないので友達はちゃんといるらしい。
 彼女の変わっているところといえば、この俺に興味がまるで無いという点だ。

 俺は天から三物与えられた罪な男で、ファンクラブができるほど女子にモテる。ファンクラブの者でなくとも女子はみんな俺を見かければ黄色い声をあげるし近づけば顔を真っ赤にして興奮する。男子だってみんな俺に興味津々でいつだって注目の的だ。妬まれることもあるが仕方ない、何故なら俺が登れる上にトークも切れる美形だから。
 とにかくそれが俺の日常で、当たり前のはずなのに。それなのに。ミョウジさんはいつも俺に興味がなさそうでなんなら怠そうに返事をする。だから調子が狂う。
 誰に対してもそんな感じなので俺が個人的に嫌われているというわけでもなさそうで少し安心しているが、言うならば俺にとって未知の生物、あるいは天敵。


「おはようミョウジさん」
「おはよー」

 席替えをしてから俺は毎朝ギリギリに来る彼女に挨拶をして、天気の話だとか時間割の話だとか朝食の話だとかをしてHRまで時間を過ごす。彼女は俺の話を聞く時は大抵携帯をいじったり頬杖をついたりするし、返事も「ふぅん」とか「そうだね」などかなり適当だが彼女がその瞬間だけでも俺に注目しているなら満足だった。


 ある日ミョウジさんが珍しい髪型で登校してきた。いつもはウェーブがかっている髪はまっすぐストレートになっていて、新鮮だった。

「いつも巻いているのか?」
「うん、でも今日は時間なくて」
「ストレートもいいな、似合っているぞ」
「ありがとう」

 俺が思ったことを素直に口にして褒めるとミョウジさんは少し笑った。彼女は決して暗い性格ではないが、笑う顔を見るのはレアだ。
 隣の席になってよく話すようになってわかったが、ミョウジさんは好き嫌いがはっきりしていてかなり素直だ。本当にその感情になった時にだけ喜怒哀楽を見せる。クールだとばかり思っていたが存外わかりやすい性格で、可愛らしいと思う。

「そのヘアピン可愛いな」

 俺はミョウジさんの耳の上あたりについているそれを指差して言った。シンプルな形だが少しラメが入っているそれはセンスが良くて、ミョウジさんに良く似合っていた。

「嬉しい。これ、この前買ったんだ。髪巻いてないとなんか物足りない気がしてつけてきたの」

 ミョウジさんは徐にヘアピンを外した。溜めていた部分の髪がさらりと落ちる。

「東堂も似合うと思うよ」

 急にミョウジさんが近づいてきて俺に触れるから、びっくりして何も言えなかった。ミョウジさんは俺からカチューシャを取って、自分のヘアピンを俺につけた。

「ほら、似合う。かわいー」

 ミョウジさんは「うける」と言いながらパシャリと携帯で写真を撮った。

「お、おいっ!」

 ようやく反応ができた俺は情けなかった。カチューシャ返せとか、勝手に写真を撮るなとか、言いたいことはいっぱいあるのに上手く言葉が出てこなくて。とりあえずミョウジさんの手からカチューシャを取り返すことしかできなかった。

「可愛いよ東堂」

 けらけらと笑いながら「ほら見て」と言って向けられた画面には顔を赤くしてきょとんとしている俺が写っていた。サイドにヘアピンが煌めいている。

「なっ……お、男に可愛いとは何事だ!」
「いいじゃん褒めてるよ、可愛いよ」
「まず写真を消せ」
「やだー」
「頼むから消してくれ!」
「えー」
「そんなに俺の写真が欲しいのならばもっとちゃんとポージングしたやつを撮ろう。それでいいな?」
「え、べつにそれはいらない」
「なんだと?!」

 ミョウジさんに抗議しつつも内心はずっと心臓がうるさくてしょうがなかった。勝手にカチューシャを取られヘアピンをつけられ盗撮されて、完全に遊ばれている。しかも可愛いとかうけるとか言われて、男の矜持が問われる。しかしミョウジさんにそうやって扱われて喜んでいる自分がいて、それを隠すためにむすっとした表情を作る。

「あ、先生きちゃった」

 ミョウジさんは教室の入り口に目を向けると、「返して」と言ってまた不躾に俺に触れた。またドクンと心臓が跳ねる。すんなりとヘアピンを取られ、それをそのままミョウジさんは器用にじぶんの髪につけた。そして何事もなかったかのように前を向いて頬杖をついた。
 俺はミョウジさんを少し恨めしく見ながら、急いで鏡を取り出してカチューシャをつけた。ああやっぱりしっくりくる。なんだか落ち着かない気持ちを宥めるようにたいして崩れていない前髪をいじった。


 隣の席のよしみでミョウジさんとよく話すようになってからひと月以上が経った。
 相変わらずミョウジさんは他の女子と違って俺に興味がなく、コミュニケーションも気まぐれで掴み所がない。でも確実に前よりは親しくなったし、向こうから話しかけられることも増えた。そして何より俺の気持ちが変わった。
 俺はミョウジさんが好きだ。明確にいつそうなったかはわからないが、気が付いたらもう好きだった。
 恋愛は初めてじゃない。昔からモテたし、何人か付き合ったこともある。でも自分から誰かを好きになったことも夢中になったこともなくて、ミョウジさんに対する感覚が初めてでどうしたらいいかわからなかった。
 巻ちゃんに相談したら「……デートにでも誘えば?」と言われたがインハイ前のこの時期にそんなことしてる暇はない。でもどうにか一緒にいる時間を増やしたいと無理な願望を伝えると、「じゃあマネージャーに勧誘するしかないっショ」と言われた。俺はあまりの名案に雷に打たれたような衝撃を受け、「さすが巻ちゃん!! 天才か?!」と言った。
 翌日、さっそくミョウジさんに自転車競技部のマネージャーの話を持ちかけた。

「え、無理」

 ミョウジさんは即答だった。しかし想定内だったので俺はめげずに勧誘を続けた。

「絶対大変でしょ。男ばっかだし」
「たっ大変だと思うが手伝うぞ! それにやってみたら案外楽しいかもしれんしな!」
「自転車わかんないし」
「かまわん、俺が教えてやるぞ」
「てか興味ないし」
「ハッハッハ、今はな!」
「東堂のファンなら喜んでやんじゃない」
「ファンには夢を与えねばならんからな、裏側を見せるわけにいかないだろう」
「はぁ?」

 一週間ほどしつこく誘って、とりあえず見学だけでいいから来てくれないかと頼んだらミョウジさんが渋々といった様子で「一回だけね」と言ってくれた。

 その日の放課後ミョウジさんを連れて部室へ向かった。俺は内心踊り出したい気分だったが至極冷静を装った。「着替える間少し待っていてくれ」と言うとミョウジさんは淡々と「わかった」と応えて部室から少し離れた木陰に向かった。
 事前に部長や何名かにはクラスメイトが見学に来る旨を伝えていたので何の問題も無いと思っていたのだが、俺は大変なことに気がついてしまった。

「なんかすげー可愛い子がいる!」
「あれ二年の子だよ、前うちのクラスの奴が告ってた」
「彼氏いんのかな?」
「なんか綺麗系と可愛い系どっちもって感じでいいな」
「あとでLIME聞こうかな」

 部室にある大きな窓からは外がよく見え、そこに何人かが集まり外を見ながら話をしていた。そいつらの視線の先はミョウジさんで、
 男ばかりのというか男しかいないこの場所で、まるで砂漠のオアシスの如くミョウジさんは注目を集め部員達を活気立てていた。当の本人はなるべく目立たない場所にひっそりと佇んでいるのがいじらしい。

「しまったぁ!」
「っせ!!」

 思わず頭を掻き毟りながら叫んでしまい、側にいた荒北に思いっきり睨まれた。申し訳ないが俺はそれどころではない。

「どうした東堂」

 福富に話しかけられたがそれも構ってる余裕はない。俺は今猛烈に葛藤しているのだ。
 部活に学業に忙しい俺がミョウジさんと一緒にいる時間を増やす唯一の策である巻ちゃん考案の「ミョウジさんに自転車競技部のマネージャーになってもらおう作戦」はつい先ほどまで薔薇色の未来しか見えていなかったが、思春期の猿ばかりが集まるこの場所にミョウジさんが入るなんて危険じゃないかと思った。

「俺は……俺はどうすれば……」
「マジでなんなんだコイツ」
「よぉ、東堂どうしたんだ」
「わからん、何か悩んでいるようだが」
「珍しいな。それよりあそこにいる可愛い子、誰?」

 相変わらずパワーバーを貪りながら現れた新開に、俺はバッと音が出るほど勢いよく振り向いた。

「新開貴様もか!!」
「何が?」
「ミョウジさんに不躾な視線を送るんじゃない!」
「ミョウジさん?」
「あの子ミョウジさんっていうのか」
「東堂の彼女か?」
「かのっ……違う、クラスメイトだ」
「ふーん? ああ、見学に来るって言ってた子か」
「なんか凄く退屈そうにしてるけど大丈夫か?」
「そ、そうだな。ちょっと行ってくる」

 悩む前にまずミョウジさんが軟派な輩に囲まれる前に話しかけねばと思い




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