太陽は物陰に隠れる私を上手く隠してくれているだろうか。レイシフトに成功するや否や己の魔力を集中させサーヴァントを召喚する。する予定だった、だか召喚は途中まで成功するのだが途中で魔力が不思議に弾け失敗に終わる。
それよりもレイシフトしてからというもの先程からずっと高い所から何者かに狙われているため、そのせいで集中が乱れているという事にしたい。何度挑戦しても召喚術式は途中で切れてしまう。頼りのドクターとダ・ヴィンチちゃんの通信も先程から繋がりが悪い。
「もう、誰でもいいから喚ばせてよ!」
建物の陰から顔を覗かせれば、小さな光が見え急いで顔を戻すと建物を少し抉り地面に小さくぽっかり穴が空いている。
こういう地味でかつ弱い攻撃を仕掛けて来るのは、魔術師(マスター)の役目だ。となると、サーヴァントが居てもおかしくないのだが先程からの微弱な攻撃からすると、サーヴァントで倒す程でも無いと見られているのか、もしくはサーヴァントは既に私を捉えていて魔術師の命令を待っているのか、というところか。
だがこのまま無駄に時間を過ごす訳にもいかない、不利な私は召喚が出来ないままで居るわけにはいかない。霊子が安定する場所へ行けばきっと召喚出来るはず…!
魔術師の攻撃が止んだのを確認して、魔術礼装のフードを深めに被り思い切り建物の陰から飛び出す。こうなったらガンドの一発や二発お見舞いしてやろうじゃないか。
敵の位置は先程確認した。位置から変わってはおらず、数メートル離れたビルの屋上からこちらを狙っていたようだ。
「いっけー!」
ガンドを連続で二発撃つ、と見せかけ重ねてもう一発。レイシフトする際にイシュタルから宝石を沢山貰って正解だった。惜しみなく大量に使わせて頂く。
迎撃されるかと思ったが、屋上の方で大きい爆発音が聞こえ見事命中したのが分かる。令呪も三画残っている、もしものために召喚出来なかった場合に強制的に喚ぶ事を頭の片隅に置いて、敵の方へと少しずつ近づいて行く事にする。
「てっきり屋上から降りてくるかと思ったけど、あれだと躱されたかも」
敵が居るであろう建物へと入る、中はもぬけの殻で如何にも胡散臭いが屋上へ来いと言わんばかりに階段の道が開けている。
今一度手の中に宝石を握り締め、階段をゆっくりと上がって行く。ドアの向こう側にはきっと敵の魔術師ともしかすると霊体化したサーヴァントが隠れているかもしれない。
せーの、で勢いよくドアを蹴破り屋上へと転がり現れる。転がる予定は無かったが、敵の姿がようやく見れた。
黒いマントで身を隠し、美月と同様にフードを深くかぶっているせいか顔までは認識出来ないが、背丈は余り自分と変わらないように見える。
体勢を立て直し、美月は急いでガンドを構える。すると向こうの魔術師も静かにガンドの体勢を取る。どちらも一歩も引かず睨み合い数秒が過ぎる。
すると敵の魔術師が口を開いた、
「そちらの魔術師さん、まさか丸腰で私とガンドだけで勝負するつもり?サーヴァントを隠し持っているなら、こっちも容赦しないよ?」
あれ、この声何か違和感がある。
呆気に取られていると敵の魔術師は、誰かと話しているのか口元が動いている。
今のうちだ、ガンドを撃つなら今この瞬間しかない。
手の中に隠し持っていた宝石を、敵の魔術師へと投げる。そして敵の足元へとガンドを数発、胸元へと二発撃ち込む。この距離でガンドを避けるのは、まず無理だ。避けるとしたらそれは、
「サーヴァント…」
爆風により砂煙が立ち込め、服の袖で口元を隠す。敵の魔術師は倒れていない。やはりサーヴァントを隠し持っていたか。
徐々に砂煙が落ち着いていく、砂煙が晴れたらきっと攻撃を仕掛けてくる。
「はぁぁぁああ!!」
声を張り上げて砂煙がまだ晴れていない中、敵の魔術師の方から誰かがこちらへと走ってくる。
急いでこちらも盾の魔術結界で攻撃を防ぎ、敵サーヴァントに押される前に押し返す。その際フードが取れ顔を髪を晒してしまう。
だが砂煙が晴れ、向こうの魔術師もまた己のサーヴァントが吹き飛ばされた風圧によりフードが取れていた。
「「わたしが…もう一人…?」」
そこに居たのは紛れもなく仁志美月。そして私が吹き飛ばしたサーヴァントはマシュだった。
破鏡1
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