気分転換にとお気に入りサーヴァントを引き連れて、シミュレーションルームへと訪れた美月は、コンソールパネルを少し弄るとシミュレーションルームは姿を変えて、室内プールが現れた。

この数日余り身体を動かす機会が無かったので、そしてせっかくなら泳いでしまおうという安易な考えに至り、カルデア制服の下に水着を着ているのだが隣のサーヴァントは気づいて居ないだろう。寧ろプールが現れた事に驚きを隠せないのか呆気に取られている。

「ギルはそのへんのイスに座ってて?私はひと泳ぎしてくるからっ!」

ババッと服を脱いで、プールの縁に座り足先からゆっくり入水する。冷たい水でなく温水プールにして正解だ、夏まではまだ期間があるから、こんな事で風邪を引いている場合ではない。

最新技術なのか、それともシミュレーションだからなのか水には消毒用の塩素が入っておらず、なおかつ細菌やウイルスは死滅済みときたものだ。目を開けても痛みもない。

深い所へと潜り、一気に水面から顔を出す。イスに座っているギルガメッシュと顔が合い手を振る。

「ギルも泳いだらー?気持ち良いよー!」

水に背を預けゆらゆらと揺れる。声をかけたが何も返答が無いようなので、雑誌でもタブレットでも見ているのだろうか。我儘を言うようだが一人で泳ぐには大きすぎるプールだ。他のサーヴァント達も連れて来れば良かったと、今になって後悔する。

息を吐き切ってプールの底へと沈んでいく、手を伸ばしても水面には届かないこの距離が何だか切ない気持ちにさせる。

(明日からまた忙しくなるだろうし、こうやって遊ぶ時間も無くなっちゃうのか…)

そろそろ息が苦しくなってきたから水面から顔を出そうと、プールの床に足を付けて思い切り蹴り上げる。

「ぷはっ…わあ!ギルも泳ぐ気になった?」

再度顔を出すと、プールの縁に足だけ水に浸けて険しい顔で水面を見つめるギルガメッシュと顔を合わせる。

「このような水で泳いで何が楽しいと言うのだ」

「そんな悲しい事言わずに!まさか王様実はカナヅチとかで泳げないとか言いませんよね〜?」

「そのような幼稚な挑発には乗らぬが、今回は特別に良いであろう!」

そう言って綺麗に飛び込んでは、顔を水から出して髪を掻き上げる。

「絵になる人だなあ、ほんとに」

「今更であろう?」

息をスウッと吸うとギルガメッシュの姿は水中へと消えて、それに続いて美月も水中へと身を潜める。

水深部の方ではギルガメッシュが身体をくねらせて、綺麗にそして静かに泳いでいる。

(嫌そうにしてたけど、泳ぎは王様級ってか!)

と勝手に思いながら美月は、少し先にプールから上がりギルガメッシュの泳ぎを見る事にした。

プールの端から端までを一気に泳ぎ、そして素早くターンからのクロール。どこで泳ぎを覚えたのか気になるが、聞いたら聞いたでややこしい事になりそうだと思い、口を紡ぐ。

そうこうしている内にギルガメッシュもプールから上がり、宝物庫から飲み物を二つ取り出すと、一つを美月へと放り投げた。弧を描き美月の手の中に飲み物は納まる。

「些か作り物のプールでは飽きるな。オケアノス辺りに行って本物の泳ぎを見せてやろうではないか」

と言いながら腕を組み高笑いをして、自らを宙へ浮かせている。

「えぇぇ、なんか変なスイッチ入ってるし…それに、水の上に浮くの反則だし」

「たわけ!遊びにも我は本気になるに決まってるであろう!」

「じゃあ、夏はみんなでオケアノスで海開きしよっか!」

と言って予定を立てたは良いが、あんな事になるとは思ってもいなかった。



本気に遊ぶ1
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