「どうして止めるんですか、王様!」
敵の美月が、マシュの攻撃を受け止めた張本人であるギルガメッシュに声をあげる。
姿が見えなかったのは、きっとこの様子を霊体化して高みの見物でもしていたのだろう。だがこのチート級の王様も敵の美月が召喚したとするなら私はとても分が悪い。
「なあに暇潰しに着いて来たが、些か興が乗るではないか!腑抜けた顔が二つもあるんだぞ」
殺されるならせめて、マシュじゃなくて王様に一思いに殺されるなら良いのかな、なんて私の思考は段々悪いものへとなりそうになった。
「何だ、こちらの雑種既に正気を失っているではないか!我を見て恐れ入ったか!」
こっちの王様もどうせ、偽物の私をきっと楽しんで飽きたら殺すんだ。それなら最終手段に出るしかない。
「ギルガメッシュ…」
「………」
私はここで死ぬわけにはいかない、レイシフトの時に聖杯の影響か何かでそこに居る偽物と私の立場が入れ替わってしまったのなら、大方説明がつくってものだ。
だが今の美月には守ってくれるサーヴァントは愚か、通信機が壊れて自らが本物という事を証明する物が何一つ無い。今偽物に捕まって大好きなサーヴァントに殺される訳にはいかない。
「そっか、そうだよね…ギルもマシュもドクターもダ・ヴィンチちゃんも、後から現れた私が偽物だって思うよね!けど、そこにいる私が偽物って言っても信じてもらえない…ならこの特異点で原因を見つけるしかない…!」
ギルガメッシュから距離をとって、宝石を一つ高く投げる。呪文を詠唱すると宝石は眩く光を放つ、所謂目眩しに宝石を使った。
敵の美月とマシュ目の前に居るギルガメッシュも私の行動を予測していなかったのだろう、見事目眩しに掛かり目を押さえ光を遮っている。
「じゃあね、ギル」
聞こえるか聞こえないかくらいの声量で、ギルガメッシュを横切り私は屋上を急いで後にする。この特異点の謎を一人でも解明して敵の化けの皮を剥いでやるんだ。
唇を噛み締めて、再度魔術礼装のフードを深く被り足を懸命に動かし走り去る。
「敵マスター逃がしました、どうしますか先輩」
「王様行ってくれますか?」
美月が居なくなった屋上でギルガメッシュは何かを考えるような素振りを見せ、霊体化して姿を隠す。
「この我直々に行く程でも無いわ、興が乗らん」
そう言い残し、ギルガメッシュの魔力反応が遠ざかる。それを見ていた敵の美月とマシュは顔を見合わせて小さく笑った。
「気分屋なんだから、もう…」
「あはは…。こうなったら私と先輩だけでも偽物を追いかけましょう」
うん、と言い残し敵の美月は走り去った美月の方を見つめている。どこか心ここに在らずと言った感じで、マシュが心配そうに顔を覗くと微笑んで何も無かったかのように振舞った。
すると通信機が光を放ち、映像が写りドクターではなくダ・ヴィンチが映る。
「偽物の追跡は王様が行ってくれたのかな?それとずっと気になっていたけど、向こうに見えるのは遊園地であってるのかなー?あんなのあったっけ?」
「ダ・ヴィンチちゃんの言う通り、向こうからただならぬ魔力を感知します。こんなに離れているのに…」
すると屋上の手摺を掴み、敵の美月が遊園地を指す。
「敵の私も馬鹿じゃないなら、あそこに向かうはず…とりあえず行ってみよ!」
破鏡3
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