声が出にくい時点で気づいていた。美月が作り出した結界以外にこの特異点が、私を偽物だと決めたんだ。偽物の私は排除するべきだと時代修復の中に私…仁志美月までが入ってしまったのだ。

そして目の前で高らかと笑う、仁志美月が本物という事でこの時代の修復はあと残り僅かで終えるだろう。

もう一つ気づいたのは、ギルガメッシュが攻撃しても傷を負わなかった事。そして私が背中を打ち付けた際に、彼女も隠したつもりだが咳き込んだ事。間違っていなければ、私と彼女の繋がりを断つ方法は一つしかない。

「ま、しゅ…ごめん」

「いえ、先輩が悪いんじゃないんです。初めの時点で気づけない私が未熟者で…普段から先輩を見慣れているはずなのに…!」

マシュは涙を流しては拭って、エネミーに突っ込んで行く。

「湿っぽいのは、偽物の己を蹴散らしてからにせよ!」

いついかなる時も冷静なギルガメッシュでさえ、戦いに少し荒っぽさが見える。

目の前に対峙する偽物の自分と未だに鏡から溢れる出る敵と戦う二人を前に、彼女は一人どうして良いのか分からず床に座り込んだまま見ている事しか出来ずに居た。

鏡の世界…。私と彼女は鏡を通して繋がり、魂を喰い力を鏡から得ていた。そして鏡の欠片を全身に浴びた私に最終的に繋がりを求め、私は次々に魔力や記憶さえも彼女に全て奪われるというわけか…。

「おわらせなきゃ…」

視界が再びぼやけてきた。目を擦りしっかりと目を見開く、応戦する二人より少し下がり派手に割れた鏡の破片を手に取る。鏡は三角形になっており先は鋭く、持っている手に力を込めると血が滲み出てきた。

鏡の破片を手にした私を確認した美月が、血相を変えてマシュとギルガメッシュに目もくれずこちらに走ってくる。やっぱり―。

その様子に、いち早くギルガメッシュが気づき偽物のギルガメッシュを弾き飛ばし振り返る。

「やめ―」

その瞬間、思い切り鈍い音を立てて胸に鏡を突き刺した。それと同時に美月が耳を劈く程の悲鳴をあげた。

マシュも偽物のマシュを盾で押し飛ばし、彼女に駆け寄るギルガメッシュの後を追い、変わり果てたマスターの姿に小さく息を飲んだ。

「…っ先輩!!!」

胸から溢れんばかりに血が流れる、前のめりに倒れそうになった美月の身体を支えるギルガメッシュの手から腕から下にアスファルトの床に血が流れていく。

「つながり、を…断つしか、なくて…」

ごめん、と言いたいけど口を動かすのも疲れてきた。手を握ってくれているギルガメッシュの顔をよく見たいのに目を開けているのか綴じているのか分からない。

「マシュ…!しっかりせぬか、美月が作ってくれたチャンスであろう」

「―っ!」

ギルガメッシュの声に反応し、盾を再度持ち急に動かなくなった敵を掻き分け未だに狂い叫ぶ敵の元へと向かう。

胸を押さえて、よろめきながら立つ敵の胸から黒い闇が溢れていた。

「さようなら、先輩」

マシュはそう言い、盾で攻撃すると敵は闇の粒子となり宙へと消えた。それが消えると敵の主力が消えた事により、周りに居た敵も次々と消えていく。

すると遮断されていた通信が戻り、音声のみだがドクターの声が聞こえてきた。

「一体何があったんだ!?美月ちゃんに何があったって言うんだ…!」

「ドクター!聖杯は回収しました!可能であるのなら、今すぐ強制レイシフトしてください…!でないと、先輩が助かりません…!!!」

音声のみであるがドクターに向けて泣き叫ぶマシュに、映像を見る事は出来ないがバイタルチェックをしている管制室でも何かしらあったはずだ。

「わかった、強制レイシフトを実行する」




破鏡8
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