目を開けると、医務室の天井という事をすぐ把握した。腕に繋がれた点滴の数に驚き、どうにかあの特異点から帰って来れた事に気づき安堵する。

するとカーテンの開く音がして、ドクターが私を見下ろしていた。

「お疲れ様、マスター美月。一週間ぶりのお目覚めだよ、特異点Xでは霊子がとても不安定で、幾度となく通信は遮断されていた。そして最後に音声のみだが繋がった途端マシュに大声で強制レイシフトを実行してくれーって叫ばれてね。その数分前に美月ちゃんのバイタル数値が一気に低下して大変だったんだ。帰ってきた君はコフィンの中で血だらけで、急いで緊急手術に至り大事には至らなかったけど…危険な真似を今回はしたね」

「あれ以外方法が無かったんです、目の前の私を倒すにはああする以外時間が無かったんです…」

そんな美月の言葉を聞きながら、近くにイスを持ってきてドクターは座る。

「マシュから聞いたけど、ボクらも本物の君に気づく事が出来ず本当に申し訳なかった」

頭を下げるドクターに偽物呼ばわりされた事を考えると、まあ良いか!なんて気もしてくる。

「そういえば、ギル……王様は?」

「ああ…血だらけの君を抱えてくれたのはあの王様でね、余りの形相に今にも誰か殺しそうだったよ…!」

「ほう…我が誰か殺しそうだと?医者よ」

やっぱり居た、医務室の壁に背を預け目を綴じて話しでも盗み聞きしていたのだろうか。ドクターの驚きの声に笑ってしまうが、傷口に響くときたものだ。

「医者よ、管制室にて誰か呼んで居たぞ」

「え?そうなの?……あ!そうだった!」

ドクターは立ち上がり、ドタバタと机の資料を手に医務室を慌てて出て行った。あれは完全に呼ばれてたの忘れてたな…。

するとギルガメッシュが近づいてきて、ゆっくりと手を伸ばしてくる。キュッと目を瞑ると頬に優しく触れてくる、冷たい手が心地よい。

「貴様が無事で何よりだ」

「ギル…?」

ドクターが座っていたイスにギルガメッシュが座り、少しイスを引いて近づいてきた。

「あ!そうだ、特異点では聞けなかったんですけど、本当にどうして私が本物だって気づいたんですか?」

「最初はカマをかけてやったつもりだった、だがあの何とかパークとやらで確信を得た」

普段の話す王様より、少しトーンが低くて声がよく響くというか、好きな人の声が全身に響いてる感じがして幸せというものであろうか?くすぐったい気持ちになる。

「確信…?」

するとまたギルガメッシュは美月の頬に手を伸ばし、頬をむにむにと摘んだ。それは決して力強いものではなく、寧ろ美月の頬で多少遊んでいるようにも見える。

「我を見る貴様の惚れきった顔、と言ったところか?」

言われて思い出し、恥ずかしさが一気に込み上げてくる。好きな人を見る時は確かにとても恥ずかしいが、目を見てきちんと話そうとしている事を、ギルガメッシュはそんな些細な事さえ気づいていたのか。

「ほ、惚れてなんか無いです!」

掛け布団を点滴していない手で引っ張り顔を隠す。ちらりと覗くと鼻で笑われた。

「フッ。そういう事にしといてやろう。此度の戦いでは流石の我も肝が冷えたぞ、美月」

「???」

「貴様の身体は、もう貴様だけの物では無いという事だ」

そう言い切るギルガメッシュとは反対に医務室のドアが開き、顔を赤くしたマシュと美月を心配して来たサーヴァントが入ってきた。

ん?私だけの物ではない?どういう意味か思考を働かせていると、ほんの少し頬を赤らめたマシュにおめでとうございます。なんて声をかけられて気づいた。

「〜っ!!?」

言った本人のギルガメッシュは意味ありげに微笑んでいる。腹立つ顔しやがって。責任とれ!

わたし仁志美月は此処カルデアに居る。




破鏡9 終わり
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