不幸でもいいのだ

車で逃げるようにマックスと走るだけの日々を重ねてどれだけ経ったのかなんて、もう数えてすらいない。
少し外の空気を吸ってくると車を降りた。知らない場所のはずなのに、どこか懐かしい気がして立ち止まる。

「クロエ、どうしたの?」

歩こうとしていたのに立ち止まったから、不思議に思って降りてきたのだろうマックスが声をかけてきた。

「ああ、いや。なんか、懐かしい感じがしてさ…」

この風の音を。気温と、湿度と、とても恐ろしいものを、あたしは知っている。

「クロエ」

不意に、マックスがあたしを抱きしめた。
何度抱きしめたかわからないこの体温を、あたしはもう知ってしまったのだ。

「マックス、……こっち向いて」

ゆっくりとマックスが顔をあげる。あたしもマックスを抱き締め返して、軽く唇を重ねた。

「大丈夫……。あたしはマックスの側に居るから。いつまでも。」

激しい雨を冷え切った身体で受けながら、言った言葉を反芻する。
きつく手を繋いで。壊れる街を目に焼き付けて。まるで遠い昔のことだった気もするし、つい昨日だったかのようにも感じる。

「私も、ずっとクロエの側に居るから。」

弱く抱きしめた腕をするりと解かれ、車の中に入っていくマックス。
あの日。あたし達が街を、アルカディア・ベイを見捨てたあの日から。
そんな思い出が今でも心臓を刺すのだ。



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