ながれぼし


ここは非公式の交流・夢主サイトです。
 


十二国記パロ部屋

▽2018/05/01(19:13)

持田さんへ
―――…ゆめ、か。

 だとしたら、なんて酷い夢なのだろうか。未だ収まりを見せない心臓の高鳴りを少しでもおさめたくて、右手で胸元をぎゅっとつかんだ。じっとりと汗もかいているらしく、首周りが少し気持ち悪かった。
 神子としてこの異世界に連れてこられ、もうどれくらいの月日が流れただろう。はじめは何もかもが分からないことだらけで、突然あなたは龍神の神子なのだと告げられ、怨霊を浄化できる唯一の存在といわれ、日々戦っている。役に立てないながらも、少しは慣れてきたのかな。それでも元々は平凡な日常を送っていた女子高生だった。あまりにも変わりすぎた環境に、未だに泣きたくなるときもあった。
 今は何時だろう、と外へ目を送る。時計なんてものはないから正確な時間は分からないけど、まだ真っ暗だし誰かが動く音も聞こえないから夜中には違いない。現代とは違って街灯があるわけでもない京の町中にはどこまでも暗闇が続いていた。だからか、ここには自分一人しかいないのかもしれない、と錯覚する。襖を隔てたところには見張りの人もいてくれるのに、物音ひとつしない、静かすぎるせいもあるのだろうな。
 そこで漸く深い息をついた。ここはしっかりと現実世界で、あの夢の中ではないことを理解したのだ。未だ脈打つ心臓は確かに自分の存在を確立させていた。膝を立て、両腕で抱え込んで頭をうずめる。あんなに汗をかいていたのに、今ではその汗が冷え、ひんやりと背筋を凍えさせる。
 ふぅ、ともう一度息をついた。はやく朝になってほしい、はやくみんなの顔を見て安心したい―――。




「おはよう、はるひめ」
「おはよう、ラナちゃん。天文さんもおはようございます」
「おはようございます、神子様」

 あのまま一睡もすることができないまま、いつも通りの変わらない朝をむかえた。起きる支度をしていると、小さな足音とそれに伴うように鳴る足音と、二人分のものが聞こえてきた。手を繋いで表れた2人は、―というよりそのうちの1人だが―わたしを見るとぱっと表情を明るくしてくれた。
 星の一族だというラナ姫はまだ幼いが、それでも一族としての役目をしっかりと果たそうとしている。その傍らに控える天文さんにもだいぶ慣れた。最初は取っ付き難い人なのかと思ったけど、とても優しい人だった。困っているとスっと手を差し出してくれるような優しさを持っている。幼いラナちゃんのお世話をしているからか、とても面倒見がいいのだろう。
 ここで漸くわたしはほっと息をつくことができた。2人の顔を見て安心したのだろう。思わずついて出た笑顔に、ふたりは似たような表情で首をかしげていた。なんとなくこのふたりは雰囲気が似ていた。

「はるひめ、今日はどうする?」
「そうだなぁ」

 上目気味にわたしを見上げるラナちゃんに笑いかけ、それから思案する。
 退治したはずの怨霊はあちこちで復活しているしそれを封印しなければならない、ああでも札集めもしなきゃ期日に間に合わないかも。うーん、と唸りをあげたとき、天文さんが、姫、とラナちゃんを呼んだ。

「どうしたの、たかふみ」
「本日の神子の予定はもう決まっていましたよね」
「え、そうなんですか?」
「はい」

「あ」

 天文さんがわたしに返事してくれたのと同時にラナちゃんが大きく口を開けた。そういえば、と顔に書いてある。表情の読みにくい子だけど、最近は慣れもあってか段々と分かるようになってきた。

「そうだよ、はるひめ。今日、もうみんなきてる」
「え?」
「もう待ってる」

 思いがけない言葉に顔をあげ、少し高い位置にある天文さんの顔を見た。彼はしっかり頷く。

「お庭の方にいらっしゃいますよ」
「こっち!」
「わわっ!」

 天文さんの示した方へ、ラナちゃんに引っ張られる。お気をつけて、と注意する声が遠ざかり、縁側に出れば、広がる庭の中に、みんながいた。

「あ、はるひめ、きた〜」
「おはようございます、神子殿」
「…少し顔色が悪いように思えるが」

 いつもと変わらないみんながいた。ほ、っと胸に安堵が広がると同時に、どきり、と変な音が聞こえた。昨夜の夢を、思い出してしまったのだ。

「?はるひめ、どうしたの」

 思わず立ち止まるわたしに、引っ張っていたラナちゃんも立ち止まる。不思議そうに見あげる視線に、はやく何でもないよって笑ってあげないといけないのに。
 地面に倒れふす八葉は、みんな血だらけで、傷だらけだった。―みんなそれぞれ得意技があるし、強いのはわかっている。それでも、身を挺てわたしを守る姿にいつも焦燥感をおぼえていた。八葉は神子を守るためにある道具だと思えばいい、とはじめのころ詩織くんからもハッキリ言われたこともある。それでもいつか取り返しのつかないことになりそうで、こわかった。

「春姫さん…」
「はるちゃん?」

 はやくなんでもないよ、って。

「み、神子、さま、」
「神子……」

 みんなが心配しちゃうから。そう伝えなきゃいけないのに。

「まーったく仕方が無いな、はるひめは」

 ふ、と、よく知った匂いが鼻をかすめた。いつものからかう声色ではなく、どこか優しく、それをいつもの彼の様相で隠しているような。
 頭を、撫でられている。よしよし、と口に出しながら、彼の少し無骨な手が何度も行ったり来たりする。

「り、りおくん?」
「あっ、こら、りお!」
「あー!ずるい、俺もはるちゃんにさわりたい!」
「って、そういう問題じゃねえ!」
「はは、みんな元気ですね」
「ええ、そうですね。それが、なによりです」

 わいわい、と笑うみんなで、夢の内容が上書きされていくのをかんじた。凍っていた世界が、春の日差しで溶けていくような気がする。

「えへへ、漸く笑ってくれたね」
「カスカさん、…ごめんなさい、あの、でも今日はどうしてみなさんで…?」
「ほ、宝玉、から、神子様の、気が乱れるのを、か、感じたんです…」
「それで…きてくれたの…?」
「そうだよ、俺たちはるひめ大事だからね」

 いつもだったら、またそんなこといって、と冗談で受け取るその言葉も、じんわりと胸を熱くさせる。

「何があったかは知らないが、…おまえは、よくやってると思う」
「え、あ、詩織くん…」
「お〜詩織くんがほめた」
「茶々いれるなよ…」
「それにね、春姫さん。俺たちは、あなたが悲しむ姿は見たくないから、笑っていてほしいかな」

 類斗さんの優しく暖かい手が肩にふれる。彼の優しさが伝染するようだった。

「…はい、わたしも…」

 血まみれで倒れふす八葉が目の前にいた。それでもなお、わたしを守るために助けるために何度も立ち向かっていく姿があった。段々と強くなっていく怨霊は容赦なく襲いかかってくる。

「みんなには、笑顔で、いてほしいです」

 そのために、わたしは頑張るしかないんだ。守られてばかりではだめなんだ。今度は、わたしがみんなを守れるように。わたしは龍神の神子なんだから。
 夢を絶対正夢になんかさせない。いつまでもこうして笑っていてほしいから。そのためなら、わたしは頑張れる。

「ーよし、じゃあはるひめ、今日は俺とふたりでお出かけしよっか。元気つけるために」
「は?お、おい、何言ってんだりお!ずるいぞ…!!」
「俺も神子と一緒に出かけたいなぁ…」
「…お、おれ、も…なんて…言えない…」
「えー!じゃあ俺もはるちゃんと行きたい!この前すっごく綺麗な景色の場所見つけたんだよ〜!」
「それならいっそみんなで行くとかどうかな?」
「ふふ、いいですね。ぜひ、ラナ姫や天文殿も」
「ん。わたしとたかふみ、はるひめ、いっしょ!」
「ずいぶん、大所帯だな…」
「ピクニックみたいですね」
「ぴくにっく?」
「ならお弁当作ってもらって行くか」
「楽しそう!」

 わたしは、まだまだな神子なんだと思う。いつ、夢のようになってしまうとも限らない。それでも、みんながいてくれるなら、みんなのためなら、きっとわたしは前を向いて歩いて行けるはずなんだ。躓くこともあれば、泣いてしまうこともあるだろうけど、それでも、少しずつみんなが誇れるような神子になっていけたらいい。


2018.04.24 .。゚+.Happy Birthday゚+.゚

華やぐ闇に溺るる

←prev | next→