Long Time


ざりざりざり


心が削れる音がする。



いつからだったろうか、智夜の心が削れていくような感覚がしたのは。学校からの帰り道、ふとそんなことを思った。最初は全く気付いていなかった。学校からの帰り道に意味のわからない、罪悪感のような背徳感のような感情に襲われているだけだったのだ。いや、その時点で既にまずい状況だったのかもしれないがもうそれは過去の話なのでどうしようもない。諦めと苦しみが渦巻く胸中を大気の中に吐き出した。するとそれらが具現化したかのように息が白く染まる。そしてこれ心にダメージ行ってるな、と気付いたのはそれから半年ほどたった時。削れて行ってるとは思わなかったものの、傷だらけになっていっているのは何となく分かった。その時は胸に穴が空いている絵が増えた。今思えば病みまくっている。多分一番やばかったのはそっから一年ぐらい。ギリギリのラインを何とか歩いて、何も見えない未来に希望を頑張って持って、そして削れていることに気づいた。多分気付いたのも良かったのだろう。じゃないと自分でひょいっと限界を飛び越えて死んでいたかもしれない。そこは気付いて良かった気がした。ひんやりとした結晶が鼻の頭で溶ける。段々家に帰るのも億劫になっていく。そこからは時々休むことで心を回復させていた。自分の心の回復ポイントは家といっとう特別な友人だけなのだ。仕方が無い。それでも、誰かと話すたびにがりがり心は削れていく。別に無理をしている感覚は無い。素のまま接していって距離を測って、適切な距離感の中で楽しくやっているだけ。中身のコールタールのような感情は見せないように、相手が安心出来るような、自分で有るために。元々コミュ障だったのだ。人に否定されかねない自分など、そう簡単に見せる訳が無かった。沢山友達が出来た。学校は楽しい。凄く、恵まれている。分かっていても学校には行きたくないと思うし、ああ、生きているのだって億劫だ。今は未来を何とか視界に入れているから本当にギリギリのラインでは無いけれど、これで何も見えなくなったらどうなってしまうのだろう。知りたくもない。どうせ、誰も信用していないのだ。表層意識では皆信用も信頼もしている。それでも、一人になって考える時間が増えたらこれ多分言ったら駄目だったよな、とか多分自分のこと面倒くせえって思ってるよな、とか自分にだけとは言ってるけどほんとは違うんだろうな、とか疑心暗鬼なことしか浮かんでこない。どうせ、一生自分には人を完全に信じる事は出来ないんだ。ああ、笑顔って、威嚇行為と一緒だったっていうもんな。どうしようもない人間だ。死んでしまいたい。その勇気があればいいのに。今だってそうだ。こうやってわざわざ自分の分析なんかして、心が抉れるって分かりきったことなのに。



あーあ、どんどん削れていく。

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