10 -彼女の想い-




どう頑張っても伝わらない思いを


いっそ全部捨ててしまえたら



どんなに楽だろうか…――











Link.10 -彼女の想い-

(side:赤也)















彩愛と別れた後、俺は近くの公園に白井を呼び出した。

別れ話を切り出す為に。



『どうしたの?』



駆け寄って来た彼女にまじまじと顔を見られて、視線を反らす俺。

心の整理をするために何秒か間を開ける。

そして俺はもう一度白井の顔を見て、重い口を開く。




「俺と…別れてくれ――」




そう告げると、彼女は石のように硬直して、ピクリとも動かなくなった。

疑いの眼で俺を見ている。



『なん、で…?』

「お前も知ってるだろうけど…好きな奴が居るんだよ」

『大海、さん…?』

「…ああ」



――俺は、彩愛を忘れようと必死だった。



アイツと出会ったのは中学一年の春。

テニス部に、アイツは居た。

部活が同じだからか、直ぐに打ち解けて…いつの間にか俺にとって気になる存在になっていった。


だけど、付き合いたいとかは思わなかった。


彩愛が部長を好きだって言うのは聞かなくてもバレバレだったし、部長も彩愛の事を気に入ってるってことは分かってたから。

俺もただ"何となく気になる奴"ぐらいで、特別好きってわけでもなかったし。

それでも、俺の目はいつの間にかアイツを追ってた。


手遅れだったんだ…その時から、何もかも。



それから彩愛への想いはどんどん膨張していくばかりで、留まる所を知らなかった。

いい加減諦めなきゃいけないって言うのは分かってた。

でも、どうしても無理で…。


そんな時に、白井が現れた。

学年一と呼ばれる程の美女だし、上手くいけば彩愛を忘れられると思った。

だから付き合った。

だけど…ホントは俺自身が一番分かってたんだ。


彩愛を忘れることは不可能だって――




いや!

「…へ?」

『私、赤也くんとは別れない!』

「ちょ、何でだよ!俺と付き合ってても、お前が辛い思いするだけだぜ!?」

『それでも!私は赤也くんが好きだから…!』




…甘かった。

もっとスムーズに事が運ぶと思っていたのに…。

まぁでも、そうだよな…。

別れてくれって言って、ハイわかりましたってすんなり受け入れられるなら、最初から告白なんてしてこねぇよな。



『赤也くんは、どうして私と付き合ったの…?』

「彩愛を…忘られると思ったから」



俺の言葉を聞いて、彼女は思いっきりショックを受けていた。

大きい瞳いっぱいに涙を溜めて、溢れないように唇を噛みしめる。



『なら…私が大海さんを忘れさせてあげるから…!』



白井は俺の腕を掴んで、一生懸命訴える。

その様子に少し心を痛ませながら、俺はその手をソッと離させた。



「無理なんだよ、アイツを忘れるなんて」



そんなことは最初から分かってたのに。

軽い気持ちで付き合って、人を傷付けて…俺は最低な奴だ。



『それなら…最初から付き合わないでよ!』

「…ごめん」

『オッケー貰った時、私がどれだけ嬉しかったか…分かる!?』

「…マジで…ごめん」



謝って許して貰えるわけねぇけど、ひたすら謝る俺。

彼女の目からは、堪えきれない大粒の涙が、一滴、二滴と、地面に零れ落ちる。



『どうしても、別れたいって言うなら…私は大海さんに仕返しする!』

はあ…!?



突然驚いた事を口にする白井の目は、憎しみで溢れているようだった。



『だって、大海さんのせいで、赤也くんにフラれたんだもん!それくらいの権利はある筈よ!!』

「おい、白井!落ち着けよ!そんな馬鹿な事はやめろって!!」

『いや!無理!!』

「アイツを傷付けたら、お前の事嫌いになるぜ!?」

『それでもいい!赤也くんを失って、失うものはもうないもの!』



どうしてこうなるんだよ、まったく…。

俺は心の中で深い溜息をつき、決心した。




「分かった。別れるなんて言わねぇから…もう変なことは考えんな」

『赤也くん…っ』



彼女は俺に抱き付き、"ありがとう"と、何回もお礼の言葉を繰り返した。

俺は改めて、自分の軽率な行動を罵った。


人を傷付けた当然の報い、なんだろうな…。









――次の日。

俺は幸村部長の口から、信じられないことを聞いた。



『白井梨華さんからマネージャーになりたいと申請があったけど、確か君の彼女だったよね?』



この人…どうして部員の彼女まで把握してんだ?

って、そんなことよりも…白井がマネージャー!?

そんな話、俺には一言も…。



『赤也が誘ったのか?』

「い、いえ…俺はそんな話は、全然…」

『そうか』



何故だか知らないけど、部長の周りに邪悪なオーラが飛んでる気がした。

俺の、勘違い…で、あって欲しいけど。



「でっ、でも!そんな簡単にマネージャーにはなれないっしょ!?現時点で二人も居るわけだし、テニス部には入れませんよね…!?」



つーか入れないでくれよ!!

ただでさえアイツは彩愛に憎しみの心を持ってるっつーのに、近くに置いたらどうなるか…。



『いや、入れるよ』

「ですよねぇ……って、はぁ!?



俺の願いとは裏腹に、部長はサラッと言い放った。



「冗談、ッスよね…?やめましょうよ…面白くもない…」

『赤也、俺が入れると言ってるんだ。部長命令は絶対だよ』

「うっ…」

『それとも、彼女が入ったら何かマズイ事でもあるのかい?』

「い、いや…ない、と思います…けど…」

『なら問題ないな』



そう言って幸村部長は俺の前から去っていった。

なんでこんな時に限って部長は…物分かりが良いんだ…。

まさか、自分の彼女入れたから、俺の彼女も入れないとマズイと思ってるのか?

そんな余計な事考えなくて良いのに…!



何だか部活の時間が憂鬱になってきた――

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