12 -必要のない私-




ニッコリと微笑む彼女の後ろで


悪魔が笑っている――











Link.12 -必要の無い私-

(side:彩愛)














『よっ』

「雅治先輩!」



私の頭をポンッと叩く雅治先輩。

やっぱりこれが癖らしい。



『昨日はどうしたんじゃ?』

「あー、風邪引いて…一日寝込んでました」



多分原因は赤也が水をぶっかけたアレ。

まだ微熱はあるんだけど…あんまり休んでばっかいられないしね。



『どうやら、馬鹿も風邪を引く事が実証されたみたいやの』

「別に実験してたわけじゃありませんけど」

『そうかそうか。じゃ、俺はウォーミングアップするきに』



全然聞いてやがらないんですが。

まー良い、私も部活に行くか。





「ん?」



コートの近くに来た私は、何か違和感を感じた。

若干、人口が多い。

それも、女子の人口が…。



「あ、蓮二先輩!」

『彩愛か。どうした?』

「あの子、誰ですか…?」

『…聞いていないのか?』



一瞬蓮二先輩の眉が1mm動いた。

長年一緒にいた私だから分かる。

今、確かに蓮二先輩が動揺した!



『実は、マネージャーがもう一人増えた』

「もう一人…?名前は?」

『白井梨華、と言っていたが』

「!!」



白井、さん…?

何で彼女が…。



「ホントだ…」



遠目では分からなかったけど、目を凝らして見ると、確かにあれは白井さんだった。

これは、偶然なんかじゃ…ない。

そんな気がする。



『彩愛…気をつけろ』



そう一言残して、蓮二先輩はコートに向かう。

気をつけろ、って…?

確かに彼女は私を良くは思ってないみたいだけど…裏で何かするような子じゃない。

でなければ、直接私の所にあんな事を言いに来る筈ないし。



『あら、彩愛ちゃん。昨日はお休みしてたみたいね。大丈夫?』



牧原先輩がやけにご機嫌な様子で私に話しかけてくる。



「少し風邪を引いただけですから、大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」

『そんな…彼女が居たから仕事に支障は無かったわよ』

「彼女…」

『梨華ちゃんがマネージャーに入ったの』



そう言って牧原先輩は、少し離れた所に居る白井さんを手招きする。

それに気付いた白井さんは、小走りでこっちに向かってくる。



「白井さん…」

『大海さん、宜しくね?』



彼女は手を出して握手を求める。

それに応えようと、私も手を出す。

そして私達の手が重なり合ったとき、



…ッ!!



いきなり背中に悪寒が走った。

明らかな敵意を感じる…。



『じゃあ、彩愛ちゃんは選手にドリンク持って行ってあげて』

「…は、はい…」



何だったんだろう…今のは…。




『彩愛』

「精…、部長…」



ドリンクを持ってコート内に入ると、精ちゃんに呼び止められたので、振り向く。

部長と言うのは慣れない。

だって精ちゃんは私の中ではいつまでも"精ちゃん"なんだもん…。



『そろそろ本気で退部の事を考えて欲しいんだ』

「え…?」



ちょっと待って…。

また、退部って…何で辞めなければいけないの?



『マネージャーは三人も要らないってことは…分かるよね?』



何で…?

何で精ちゃんはそれを私に言うの?

精ちゃんの中で、一番要らないのは…私なの…?



「どうして、私に…」

『二人が入ったのは最近だし、すぐに辞めさせるわけにはいかないだろ』



違う…。

本当は私に辞めて欲しいんでしょ…?

それなら…

ハッキリそう言ってよ!!



『今まで皆を支えてくれたこと、感謝しているよ』



そう言い残して精ちゃんはコートから出て行く。

悔しい…最初に此処に居たのは私なのに…。

どうして私の居場所を奪われないといけないの…?

精ちゃんが私を必要としてないのは分かった。

だけど私は…



私は…いつだって――






「精ちゃん…っ!!」

『彩愛、だから部長って』

私、辞めない!!



みんなが、必要なんだ。

精ちゃんが私を要らないって言っても、私は精ちゃんもみんなも必要だから…。

だから絶対に辞めてなんかやらない。

一生に一度のわがままを…許して。



『彩愛、部長の俺が辞めろと言ってるんだ。そんな我が儘、許される筈ないだろ?』

『待ちんしゃい、幸村。彩愛を辞めさせるなら、俺も辞めるきに』

「えっ…!?」



ま、雅治先輩…。

いくらなんでもそれはマズいんじゃ…?



『仁王…辞めるなら辞めれば良い』

『待って下さい、部長!二人を辞めさせるなら…俺も辞めます!!』

『赤也…』



ちょっと、二人とも…!

部員とマネージャーが辞めるのは、ワケが違うんだからね!?

それをちゃんと理解してるのか…。



『精市。今、有力な選手を二人失うのは不味い。彩愛を辞めさせるのは、考え直した方が良いだろう』

『蓮二…。仕方ない、分かった』



精ちゃんは溜め息をついた。

二人のおかげで辞めないで済んだけど…

精ちゃんはもう、私のことなんかどうでも良いんだね。


どうして、こんなことになってしまったんだろう。

私はやりようのない悲しみで一杯になった。

- 12 -

*前次#


ページ: