14 -決意-
もう、誰にも迷惑を掛けない。
強い女になりたい――
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(side:彩愛)
今日は珍しく部活がミーティングだったので、いつもより早く下校。
なんとなく、少し遠回りして家に向かう私。
「あ…」
美容院が目に入って、ふと髪の毛を触る。
『まぁ…自慢の髪だったんだものね。切りたくないのも分かるわ』
自慢気に自分の髪を靡かせる牧原先輩の顔が浮かんだ。
「…よし」
私は心を決めて、美容院に入っていった――。
翌日、綺麗に整えられた髪を見て、赤也が絶句していた。
『お、おまえ…髪!』
「髪?あぁ、切ったの」
『何でだよ!?あんなに切りたくないっつってたのに!』
あ、そっか。
赤也は知らないんだ。
髪を切られたこと…。
「どう?似合う?」
そう言って自慢気に問いかけてみる。
『んー、なんつーか…そうだなぁ。オバサンっぽく』
「
大人っぽくなったと言いなさい」
私は赤也の頭を軽く叩く。
髪を切ったら何だか色んなことが吹っ切れた気がした。
私は逃げない…現実から――。
『彩愛、部活行こうぜ』
「え…?」
珍しく赤也がそう誘ってきた。
一体どうゆう風の吹き回しなんだか…。
『
何だよ、"え…"って』
「
何だよはこっちの台詞でしょ。いきなり何を言い出すの」
『お前は何も知らねぇで今日一日穏和に過ごしてやがったけどな、そこら辺の男がお前の噂してたんだよ』
「噂…?」
私、なんか恨まれるような事したっけ?
『その…きっ、き、き…綺麗になった…とか』
「
はぁ?」
『
だぁー!鈍すぎんだよ、お前は!バーカ!』
「バーカって…」
子供か、お前は。
それにしても…綺麗になった、か。
素直に、嬉しい。
でも…好きな人に振り向いて貰えなかったら、何の意味もないよね。
『変な男に寄り付かれねぇように、俺が護衛してやるよ』
「良いよ、私強いし」
『俺が嫌なんだよ!!…あっ』
「だから、何回も言うけど…アンタ彼女居るんでしょ?」
『あ…ああ。悪りぃ、忘れてくれ』
「??」
アレ?この前まで別れるとか言い張ってたのに…。
何か、あったのかな…?
『おっ。彩愛、赤也』
「丸井先輩、美味しそうなもの食べてるじゃないですか!」
部室に入ると、丸井先輩は美味しそうなショートケーキを頬張っていた。
ケーキが美味しそうなことには変わりないけど、丸井先輩がまた美味しそうに食べるんだよなぁ。
あれだけ美味しそうに食べられたらケーキも幸せだろう。
『食う?』
あまりにも物欲しそうな顔をしていたのか、丸井先輩がケーキを差し出してくれた。
「えっ、良いんですか!?やったー!」
『あ、お前にはやらねぇからな。赤也』
『ちぇっ、贔屓ッスか』
『
この前モンブラン食べられたお返しだ、コノヤロー』
と、丸井先輩と赤也が睨み合ってるうちに、私はケーキを美味しく頂いた。
『それより、その髪型似合ってんじゃねーか』
「あ、ホントですか?赤也にはオバサンって言われましたけどね」
『デリカシーのねぇ奴だな、赤也は』
「困ったもんですよねぇ」
『
…聞こえてるんスけど』
笑い合う私達に、赤也はムスッと語尾に怒りマークを付ける。
そしてタイミングが良いのか悪いのか、白井さんが部室に入ってきた。
『…赤也、くん…』
どうやら私達が楽しそうに喋っていたのが気に入らなかったらしく、白井さんはご機嫌斜めな表情だった。
それを察知したのか、赤也は白井さんを部室の外へ連れ出した。
その代わりにジャッカル先輩と柳生先輩が入ってきた。
『珍しい組み合わせだな』
『来る途中一緒になったんだ。おっ、髪切ったのか?』
「はい、気分転換に!」
『似合ってるじゃないか』
『えぇ、とても可愛いです』
「あ、ありがとうございます…」
二人のお世辞に何だか本気で照れてしまった。
いつも精ちゃんから辛口なコメントを貰ってたから、こうゆうのには慣れない…。
『それより、赤也と新しいマネージャーが何か揉めてたが…』
『あぁ、別に気にしなくても良いだろぃ。痴話喧嘩だって、痴話喧嘩』
『付き合ってるのか?』
『何だよ、ジャッカル。知らなかったのかよ?』
『幸村と牧原の事は知っていたが、赤也まで付き合ってたとは…』
──グサッ。
ジャッカル先輩の口から精ちゃんと牧原先輩の名前が出た瞬間、明らかに胸が痛んだ。
この緩み切った時の攻撃…一番心にキタ。
ジャッカル先輩、要注意人物かも…。
『なぁ、彩愛。最近幸村くんと何かあったのかよ?』
突然丸井先輩からそう尋ねられて、内心焦った。
遠回しに聞かず、ストレートに来るところが丸井先輩っぽいと言えば丸井先輩っぽいけど…。
少しは遠慮と言うものを知って欲しいものだ。
「な、何でですか?」
『だってお前に対する態度がおかしいっつーか…妙だろぃ』
『それは私も聞きたいです。何かあったのですか?』
「…わからない」
寧ろ私が聞きたいくらいだよ。
でも、精ちゃんの態度がおかしくなったのは…牧原先輩と付き合い始めてから。
『何か言ったとかしたとか…心当たりねぇのかよ?』
「ないです。寧ろ色々言われてたのは私の方ですから」
『確かに、よくマヌケ面とか言われてたもんな』
「
アホ面です」
『変わらないだろぃ』
丸井先輩は風船ガムをぷくーっと膨らませる。
『ま、辛いことあったら俺達に相談しろよ』
『そうです。彩愛さんにはたくさんお世話になってますし』
『あぁ。愚痴くらいなら聞いてやるぜ』
「みんな…」
みんなの暖かい言葉に、心底感動した。
この時は…知らなかったんだ。
この先に起きることなんて…何も――。