15 -不幸の訪れ-
こうなることを…
誰が予測出来ただろう――?
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『はい、ドリンクお願いね』
白井さんが入部してから半月が経とうとしている頃、私の仕事は相変わらずドリンクを渡すだけだった。
私の仕事は部員とよく接する表面的な仕事だけ。
一応二人がドリンクを作ってる間、部室の掃除をしてはいるけど…。
何か違うと思い、私は牧原先輩に言った。
「先輩、私もドリンク作ります」
『良いのよ、気を遣わなくても』
「でも…」
『私達まだ入って日が浅いし、部員とあまり仲良くないから。彩愛ちゃんが持ってった方が良いでしょ?』
そう言った牧原先輩を見直したのは、
この瞬間だけだった。
全ては仕組まれていたものだと気付くには…そう時間も掛からなかった――。
──翌日。
部活に向かう私に、突き刺さる冷たい目線があった。
違和感は感じていたけど、大して気にも止めず、私は部室に向かった。
すると、そこには真田先輩、ジャッカル先輩、丸井先輩、柳生先輩、牧原先輩の姿が。
『大海、話がある』
と、真田先輩に言われて、何だか嫌な予感を感じた。
空気が、重い…。
「なん、ですか…?」
『最近、仕事を怠けているようだな』
「え…?」
牧原先輩が怪しい笑みを浮かべているのに気付き、私はようやく事の全貌を掴んだ。
罠…だったんだ。
『真田くん、彩愛ちゃんを責めないで。注意出来なかった私が悪いんだから』
悲しげな表情で真田先輩にそう訴える彼女。
違う…怠けてなんかない。
『現にお前がドリンク渡すとこしか見てねーしな』
「丸井先輩…」
確かに、ドリンクを渡す係はいつも私だったけど、それは頼まれたからであって…。
と、そんな弁解をしたところで、信じて貰えそうな雰囲気ではない。
『あたかも自分だけが仕事してるように見せかけて、裏では一人サボってたって事か』
「ジャッカル先輩…違います、私は…」
『何が違うんだよ』
「私は牧原先輩に頼まれて…!」
『
そんな言い訳は通用しねぇんだよ』
「…!!」
そう言われて、私はどう対処して良いのか分からなかった。
だってこんな事は初めてで…。
今まで信じて貰えない事なんて無かった。
それなのに…。
『それともう一つ。二人に嫌がらせをしているようだな』
「…い、嫌がらせ…?」
『そのような幼稚な事をして、恥ずかしいとは思わんのか?』
何を…言っているの?
そんなこと、する筈ないじゃない。
『自分の方が長くマネージャーやってるからって先輩面して…最悪だぜ?お前』
丸井先輩が冷たい目で私を見る。
どうして、こんなことになってるの…?
一体、何が起きてるの…?
『今まで貴方の事を信じていましたが…残念です』
「柳生…先輩…」
何でだろう…
何でこんなに苦しいんだろう…?
みんなの目線が、痛い。
――ガチャッ。
静かに戸が開いた。
『真田に用があるんじゃが…取り込み中か?』
戸を開けたのは雅治先輩だった。
雅治先輩は周りを見渡した後、私を見た。
「――…!!」
何だか雅治先輩の目も冷たく感じて、私は目を反らした。
『これは…何の騒ぎじゃ?』
『実は…』
ジャッカル先輩が説明しようとした瞬間、私は無性に逃げ出したくなって、走って部室から出て行った。
もう、嫌だ…。
嫌われたくない…
怖い…!
みんな…
どうしてそんな目で私を見るの――?
『彩愛…』
「蓮二…せん、ぱい…」
玄関付近で蓮二先輩と遭遇した。
私は思わず後退りしたけど、蓮二先輩に手を掴まれて止められる。
『何かあったのか?』
「…なっ、何も…無いです…」
涙を堪えながらそう言うと、蓮二先輩に抱き締められた。
『お前はいつも…分かり易過ぎる』
蓮二先輩の温もりがやけに暖かく感じて、私は気が緩んでしまった。
涙が一筋、二筋…どんどん溢れてゆく。
『彩愛…』
「私…仕事…サボってなんて、いません…っ!」
『そんな事は、長年一緒に居た俺達が一番よく分かっている事だ』
「…い、嫌がらせ…だって…してません…!」
『そんな度胸…彩愛には無いだろう?』
「なのに、みんなが…恐い目で見る、から…」
『安心しろ。俺は彩愛の味方だ』
強く抱き締められて、私も抱き締め返した。
“彩愛の味方”だ、と…その言葉が今一番嬉しかった。
蓮二先輩の優しさは、今の私にとって一番の支えだった。
嘘でも偽りでも良い。
今だけは…この手を離さないでいて下さい。
「蓮二先輩。もう少しだけ、このままでいて良いですか…?」
『ああ。お前の気の済むまで、こうしていろ』
何をしてるんだろう、私は。
こんなところ赤也に見られたら大変なことになりそうなのに。
『…彩愛』
それでも、この場所が心地よい。
私にもまだ…居場所がある、って…
そう思っても、良いんだよね――?
『赤也』
「えっ…?」
“赤也”という単語に驚いて、蓮二先輩から離れる。
そこには…
「あ、赤也…」
見間違いでも、幻でも無い。
目の前に立っているのは紛れもなく…赤也だった。
『何、してんだよ…』
赤也は苛立ちで溢れている様子だった。
だけどいつもとは違って、冷静で…冷酷で。
顔には表さずに、感情をいっぱいにしている…そんな感じだった。
こんな赤也を見るのは、初めてだった。