16 -分裂の危機-




今までみんなを束ねていた糸が


ぷつりと音を立てて



切れた――













Link.16 -分裂の危機-














『お前、部長が好きなんじゃねーのかよ』



そう言って私を睨む赤也の目が、さっきのみんなの目と似ていて…。

まさか赤也にこんな目を向けられる日が来るなんて、思いもしなかった。

心の何処かで油断してたんだ…。

赤也はずっと私の味方でいてくれるって。

でも、いま…赤也が私を見ているこの目は、どう見たって敵を見る目。

いつもの優しい目じゃ、ない…。



『何とか言えよ』

「私は…」



精ちゃんが好き、なんて…言えない。

精ちゃんには牧原先輩が居る。

私はただの幼馴染みでしかない。



『お前、本当は俺と付き合うのが嫌だっただけなんじゃねぇのか?』

「そっ…そんな事…!」

『俺じゃなければ、好きな奴なんて誰でも良かったんだろ?』

「ち、ちが…」

言い過ぎだ、赤也



蓮二先輩が私を庇うように前に立つ。



『へぇ…頼もしい仲間が居て良かったな』



赤也は横目で蓮二先輩を見る。



『俺はもう、お前の事なんか助けねぇからな』

「あっ、赤也…」

気安く名前で呼ぶんじゃねーよ

「――…!」



その言葉を残して赤也は部室の方に向かった。

名前で呼ぶななんて言われたのは初めてで…。

正直かなりショックだった。


それ程、怒らせちゃったんだ…。






『何故、言い訳しなかった?疚しい事など無かっただろう』

「私…さっき、自分から蓮二先輩の温もりを…求めてしまいました…。それって、今まで私を一番に思ってくれてた赤也を、裏切ったも同然なんです…」

『彩愛…』

「蓮二先輩、ありがとうございました。部活…行ってきます」

『大丈夫、なのか…?』



心配を隠せない蓮二先輩に、精一杯の微笑みを返した。




「平気です」




平気…な筈はない。

でも、何故か不思議だね。

此処まで落ちると、なにもかもが…どうでも良くなってくる。


ショックを通り越して、涙も枯れて行く…――











『あら、彩愛ちゃん。お帰りなさい』



だけどこの人への怒りは収まらない。

一体、何がしたいんだろう?

きっとこの人の考えることは、私は一生経っても理解出来ない。



『アナタ…意外と図太い性格してるのね。こんな時まで部活に来るなんて』

「そりゃ、私が居ないと部員を支えきれませんから」

『…どうゆう意味かしら?』

「牧原先輩みたいなマネージャーじゃ、部員をサポート出来ないってことです」

『へぇ…そんな事を言っても良いのかしら?また真田くんに怒られるわよ?』




怒られても良い。

そんなことで、屈しない。

精ちゃんが居なくなって、赤也が居なくなって、みんなが私の敵になる。

これ以上最悪な事態なんて…もうないでしょ?



『まぁ、精々気をつけることね』



そう言って牧原先輩は不気味な笑みを向け、私にドリンクの入ったカゴを渡す。

私はそのドリンクを奪い取るように取って、コートに向かう。

コートには白井さんがみんなにタオルを配る姿があった。

彼女の周りにはたくさんの部員の笑顔。

何だか居場所を奪われたみたいで腹が立った。



『大海さん、何処へ行ってたの?』

「別に…」



ついつい素っ気なくなる私の返事。

彼女への嫉妬心が隠せない。

最悪だって分かってるのに、それでもこの怒りが消えない。



『部活サボるなんて、マネージャー失格だな』



彼女を囲んでいた部員がそう言った。

それをきっかけに、他の部員も口を開き出す。



『お前、裏方で仕事やらせてたんだって?』

『そうそう、自分だけ仕事やってる風に装ってよ』

『まぁでもそんなの、俺達は見抜いてたけどな』

『最悪だぜ』



その言葉達がノイズと混ぜ合わさって、耳の中に響く。

気分が悪くなるくらいノイズ音は続き、立っているのがやっとだった。

そしてトドメ。





『テメェの持って来たドリンクなんて飲めるかよ』





と、頭からスポーツドリンクをぶっかけられる。

頭から足まで、私の体はドリンクだらけで。

ベトベトして、気持ち悪いことこの上ない。




『さっさと辞めちまえ』




そう言って空になったケースを投げ付けられる。

悔しさが込み上げて、息が出来なくなった。




『何とか言えよ、オイ』



と、そいつが私の顔を掴もうとしたその時












――バキッ!




『!?』



その男は鋭い音と同時に吹っ飛んでいった。

驚いて、顔を上げると…



コイツに何かしたら、俺が許さん

『仁王…』



雅治先輩が私の前に立っていた。

普段は感情を表に出さない雅治先輩も、この時ばかりは怒っていると分かるくらい怒っていて。

何より後ろ姿がそれを物語っていた。







『もし悲しくなったら……尻尾を探せ』



いつかの雅治先輩の言葉を思い出した。

その言葉を思い出すと、急に雅治先輩のチョロ毛が尻尾に見えてきて。

私はそれを掴んだ。



『!!』



いきなり髪の毛を掴まれた雅治先輩は、私の方を見る。



もしかして…もしかしてだけどさ。


あの言葉の意味って、





悲しくなったら、俺を頼れ





って事なのかな――?

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