17 -ピエロ-
仁王先輩、
アナタは知らないだろうけど、
アナタの言葉はいつだって
私に元気をくれました――。
Link.17 -ピエロ-
「雅治先輩…尻尾、見つけましたよ」
辛い時、悲しい時、苦しい時、感情が先走ってどうしようも無い時はいつも…雅治先輩が側に居てくれた。
どうしてそのことに、もっと早く気付かなかったんだろう。
『遅いぜよ』
雅治先輩は振り向いて私の手を掴む。
そしてその手を、ギュッと強く握ってくれた。
『言うたやろ?何があっても、俺はお前さんの味方じゃ』
今まで自分のことに必死で、他人のことなんて見えて無かった。
赤也を傷付けてしまったのも、私が自分のことしか見てなかったから。
周りを見渡せば、頼れる人なんていくらでも居るのに…。
強くならなきゃって、自分でなんとかしなきゃ…って。
それで、いつも空回りしてたんだ…――。
『仁王、お前…ソイツの味方するって言うのかよ?』
『当たり前じゃ。野郎の味方はせん』
『牧原と白井は可哀想だとは思わねぇのかよ!?』
やめて…
そっちが私の事を何と思おうが勝手だよ。
でも、雅治先輩に変な事を言うのはやめて。
これ以上私から仲間を奪わないで…。
『可哀想って…何がじゃ?』
『だってコイツ、二人に嫌がらせしてたんだぜ?そんな最低な奴を、お前は庇うのかよ?』
『そうじゃ。彩愛が直接二人に嫌がらせしたとこ、見ちょらんしのう』
雅治先輩…。
私を、信じてくれてるんだ…。
『寧ろ、彩愛の方が嫌がらせを受けてる風にしか見えん』
『何だと…!?』
『だってそうじゃろ?仮に百歩譲って、彩愛が嫌がらせしてたとして。
それがドリンクをぶっかけられる程のものか、怪しいところじゃ』
雅治先輩は、私の手をそっと離して、投げ捨てられているドリンクケースを拾う。
『
そんなに飲みたく無いなら、自分で作って来んしゃい』
拾い上げたドリンクケースを、雅治先輩は目の前に居た子の体に押し付けた。
そして再び私の手を掴むと、スタスタと歩き出す。
「あ、ま…雅治先輩、ちょっと待ってください」
私は足を止めて後ろを振り向き、一言。
「そのドリンク…
牧原先輩が作ったんですよ?」
捨て台詞としてその言葉をプレゼントした。
男共の顔が少し青ざめていたのを確認すると、また雅治先輩と歩き出した。
私は、心の中で小さくガッツポーズをキメた。
「蓮二先輩…」
コートを出る途中に、蓮二先輩と出会った。
『彩愛、その格好は…』
「あ…これは…」
私が口籠もると、蓮二先輩は事を察したようで。
優しく上着を掛けてくれた。
『風邪引くぞ』
上着とその言葉を残して、蓮二先輩は通り過ぎる。
その優しさに、心が熱くなった。
『参謀』
雅治先輩が蓮二先輩を呼び止める。
『奴らドリンク無駄にしたけぇ、叱っといてくんしゃい』
『…了解』
二人は顔を見合わせると、ニヤリと笑った。
その後彼らが蓮二先輩にどんな扱きを受けたかは、私は知らない…。
『練習メニュー三倍は揺るぎないぜよ』
雅治先輩はそう言ってたけど、そんなことしたら本気でみんな死んじゃうよ。
普段の練習でもぜぇぜぇ言ってるのに。
『彩愛、気にせんで良かよ。アイツら二軍、試合に出れんもんやからストレス溜まっちょるだけじゃ』
「別に、気にしてません」
そりゃ、ドリンク掛けられてケース投げられた時は腹立ちましたけど。
あの場で雅治先輩が私を庇ってくれたから…
それが嬉しかったから。
『お前さん、今日は帰りんしゃい』
「いや、でも私今週結構休んでるんで…」
精ちゃんに会えなくて休んだのが一回、風邪で休んだのが一回、休んでは無いけど、雅治先輩と赤也がやらかしてくれたのと、さっきのあの出来事で…部活時間大幅に削ってる。
数えてみると結構あるもんだな…反省。
『その格好でどう部活するっちゅーんじゃ?』
「……」
それを言われちゃ反抗出来ない…。
ベトベトで気持ち悪いから早く帰りたい気持ちはあるけど…。
『明日から、また頑張れば良い』
そう言って雅治先輩はいつもみたいに私の頭を叩く。
髪の毛…ドリンクまみれなのに。
「…じゃあ、お言葉に甘えて…」
『ああ、ゆっくり休みんしゃい』
雅治先輩の笑顔で、私の顔もついつい緩む。
なんか、凄い。
雅治先輩は、私を元気にさせるピエロだ。
「雅治先輩、もう部活戻って下さい。後は自分で何とかしますんで」
『そうか。なら、戻るとするかのぅ』
「はい。ありがとうございました」
私は軽くお辞儀をして、雅治先輩の後ろ姿を見送る。
何だか最近…雅治先輩に礼を言う回数が増えた。
この状況だからこそ、私に気を配ってるんだろう。
人に興味なんかないように見せかけて…意外と周り見てるんだな。
って、そんなことしみじみ思ってないで、さっさと帰らないと。
お母さんに気付かれないようにしなきゃ…。
帰ったらソッコー風呂場にダッシュだ。
――ドンッ…!
「あっ…!」
『…!』
そんな計画を立てていると、誰かにぶつかってしまった。
考え事すると周り見えなくなっちゃうんだよな…。
この癖直さなきゃ。
じゃなくて…!
「ごめんなさ──」
言い終わる間もなく、気付いてしまった。
『彩愛…』
「せ…」
ぶつかった相手が、精ちゃんだと言うことに。