19 -嘘を本当に-
傷付きたくないって思ってても、
いつでも不意打ちで
私に傷を付けるよね…――
Link.19 -嘘を本当に-
(side:彩愛)
『ごめん…。相手…間違えた』
精ちゃんのその言葉がやけに頭の中でリピートしていた。
間違えた…?
間違えた、って…何?
私と誰を間違えたって言うの?
「――…」
分かってるよ…、牧原先輩でしょ?
だって私は…
――今更恋なんて感情は抱かない。
精ちゃんの、妹…だから…。
確かに、精ちゃんから見たら私は妹かもしれない。
でも私は…昔から精ちゃんの事が大好きだったの。
その気持ち、大切にしたいのに…。
弄ばないでよ…!!
――バキッ…!
部屋の扉を、全力で殴った。
すると、扉に手が食い込み、ヒビが入った。
「やばっ…!」
焦っていると、トントンとこちらに近付いてくる足音が聞こえた。
私の予想が外れて無ければ、きっとこの足音はお母さんのものだ。
『ちょっと、彩愛何の音…
っっげ!』
「あ、いやっ、これは…」
『アンタこれで何回目!?』
「あの、えっと…すいません…」
私が扉を壊すのは初めてでは無く、ストレスが溜まった時はいつも八つ当たり。
その内家が壊れてしまうんじゃないかと思うくらい、傷は増えていく。
数多く付けられている傷の中で、今回のが一番大きかった。
でも、私に付けられた傷は、
これよりも大きいんだよ…――。
『おはよう、彩愛ちゃん?』
「…どうも…」
あまり牧原先輩と関わらないように、私はそそくさと逃げていく。
牧原先輩。
この女は今、私のブラックリストの一番上に名前が載ってる。
あんまり話し掛けられると、
その意地悪なお顔にも穴をあけたくなる。
『あの…大海さん。話があるんだけど』
「
今誰とも話したくないの」
白井さんでさえも避ける私。
悪いけど、私はもう二人には関わらない。
『大海』
「…真田、先輩…」
『話がある』
逆らうわけにもいかないので、私は真田先輩に付いていく。
一体、話って…何――?
胸一杯の不安を抱えて、真田先輩に付いてきた結果…
部室に辿り着いた。
『入れ』
「失礼、します…」
――ガチャ…
私はゆっくりと部室のドアを開ける。
「………」
そこにはレギュラー全員が勢揃いしていて、一斉に私に視線を集めた。
私の不安が現実になっていくかのように、部室内に漂う重い空気。
『取り敢えず、そこに座れ』
真田先輩に指示され、座る私。
どうしよう、怖い…。
入って10秒も経たない内に、私は逃げ出したい衝動に駆られた。
『大海…。何の話か分かるか?』
「…わ、わかりません…」
何かをした覚えもないし、ましてや、こんな険悪なムードになるようなことを無意識にしたとも思えない。
取り敢えず分かることは、みんなの顔が…いつもと違うってこと。
『先日、牧原から聞いた話を覚えているな?』
「…ハイ」
『牧原から、大海に殴られたと聞いているのだが』
「――え…?」
何、それ…。
私が殴ったのは部屋の扉くらいで…牧原先輩なんて殴ってない…!
『それを聞いて、大海を辞めさせるか…俺達で会議をした』
「
私は…!」
何で…?
どうしてみんな、そうなの――?
『話し合いの結果、休部と言う形になった』
「…もう…いいです…」
『何…?』
「
もう、いい…!こんな部、もう辞めます!!」
一人の言うことを一方的に受け入れて、私の言うことは何一つ聞こうともしない。
何も知らないくせに、何も分かってないのに…
勝手に決めつけないでよ!
「
私は何もやってない!!」
――バンッ!
『
いい加減にしろよ…ッ!』
丸井先輩が机を思いっきり叩いた。
いい加減に、しろ…?
『何言ったって、嘘にしか聞こえねぇんだよ』
「…う、そ…?」
『
お前は、嘘吐きなんだよ!』
丸井先輩の言葉で…私の中で今まで我慢してきたものが、一気に溢れ出した。
――ガンッ…!
私は椅子を蹴り飛ばして、丸井先輩を睨む。
「わかりました」
『な、なんだよ…』
「
私が嘘吐きじゃない証拠、見せてあげますよ」
私は勢い良く部室を飛び出した。
何を言っても信じて貰えない。
何を言っても嘘で片付けられる。
それならいっそ…
嘘を本当にすればいい――
「牧原先輩」
『あら、彩愛ちゃん。どうし』
――パァァアアン…
私は渾身の力を込めて、先輩の頬を撃った。