20 -退部-
大嫌いだった。
憎かった。
だけど精ちゃんの彼女だから
ずっと我慢してたんだ――
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『キャッ…!!』
『
牧原…ッ!』
後ろから追いかけてきた丸井先輩が、牧原先輩の名前を呼ぶ。
この人はもう、私の名前を呼ぶ事なんて…ないんだろうな。
『丸井くん…!』
牧原先輩は丸井先輩に抱き付く。
そして二人は、同じような目で私を睨む。
『ふざけんなよ、お前…牧原に謝れ』
変な噂立てたのそっちでしょ。
何で私が謝らなくちゃいけないの?
噂通りに、殴ってやったって言うのに。
「嫌です、謝りません」
『…このっ…!』
丸井先輩は腕を掲げる。
殴りたければ殴ってください。
なんかもう、どーでもいいや…。
『
やめてください…!!!』
丸井先輩の腕をギュッと掴む…白井さん。
『白井…!』
『梨華ちゃん…』
二人の動きが止まる。
すると白井さんは私の前まで来て、
――パシーンッ…!
私に平手打ちを食らわした。
…何故?
『これで五分五分です』
「え…」
『だから、
誰も悪くなんて無いんです』
白井さんは肩を震わせ、私に言った。
『もう、部内で争い事なんて…やめてください』
「白井、さん…」
『今まで、一緒に戦ってきた…仲間じゃないんですか?』
「……」
――思えば…
牧原先輩から嫌がらせは受けても、白井さんは何もして来なかった。
それは白井さんが純粋に、テニス部が…好きだったから…?
『け、けど…』
丸井先輩が困ったように、牧原先輩を見る。
牧原先輩は困ったような顔を丸井先輩に向けながらも、“面白くない”と言う顔をしていた。
『丸井…!』
後ろから残りのみんなが集まる。
『何か、あったのか…?』
『ジャッカル…。いや、なんつーか…』
『今まで、一緒に戦ってきた…仲間じゃないんですか?』
――仲間…。
そうだ、忘れてた…。
みんな私の…仲間。
私だってテニス部が、大好きだったのに――
「白井さん。みんな…」
テニス部を狂わせたのは、
本当の元凶は…私なんだろうな。
「私、テニス部辞める」
『大海、さん…?』
遠くで、雅治先輩が心配そうに…私を見ていた。
『俺はお前に辞めて欲しくなか』
ごめん、雅治先輩。
先輩の願い…叶えられなかった。
自分勝手で、ごめんね。
『五分五分だって、言ったでしょ?辞めなくても』
「
駄目なんだよ、白井さん」
私はもう、みんなに信頼される自信がないの。
「私が、悪いんだよ」
『大海さん。違う…』
「精ちゃんが言った時に、辞めてれば良かったね」
『…彩愛』
わがままを言った結果がコレか。
最悪の、最後だよ。
「最後の最後まで、ご迷惑おかけしました」
私は部内を荒らして勝手に去っていった…悪者なのかな。
もう関わらないから、安心して。
私が居なくなってスッキリしたテニス部で、全国大会狙ってください。
「じゃあ、みんな…部活頑張って」
最後にそれを伝えて、私は走り去った。
このまま此処に居たら、涙を堪えきる自信がなかったから。
あーあ、明日から退屈だな…。
私は軽く溜息を吐いた。
「………」
ねぇ…。
みんな…本音で喋ってる?
変わってしまったね。
それでも私、信じたかったの。
だけどもう、耐えきれなかった。
「――…っく…」
悔しさと、悲しさと、やるせなさ。
色んな感情が複雑に混ざり合わさった涙を、私は帰り道独りで流した――。