21 -難攻不落の恋-
私はこんなことをする為に
テニス部に入ったんじゃない。
誰が正しいかなんて…
分かってた筈なのに――
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(side:梨華)
大海さんが走り去った後、私達の周りには何とも言えない微妙な雰囲気が舞っていた。
『ま、まぁ…場が収まったところで。練習、始めるか』
沈黙を破るジャッカル先輩。
場が収まった…?
この状況を見て、ジャッカル先輩は全て丸く収まったように見えるの?
「――…」
私は苛立ちを隠しきれず、その場から去った。
――ずっと憧れてたの。
アナタたち、テニス部に…。
みんなで笑い合って、お互いを信頼し合ってるテニス部。
その中で笑ってる大海さんが羨ましかった。
私もその輪の中に入りたかった。
『白井さんは大海と違ってよく働くよなぁ』
でも、こんな風になりたかったわけじゃない…。
こんなテニス部を見たかったわけじゃない。
こんなの…私が憧れてたテニス部じゃない――
『白井…!』
「…!!」
後ろから腕を掴まれるのが分かった。
顔なんて、見れないよ…。
今アナタに合わす顔がない。
「ごめん、赤也くん…」
あれほど大海さんを好きだったんだもんね。
きっと赤也くんの方が、私よりも憤りを感じてるんじゃないかな…。
私がテニス部に入ったから、こうなってしまったの――?
「私のせいで…ごめん」
『何、謝ってんだよ』
「ごめんなさい…今は、放っておいて…」
赤也くんの手が緩んだ隙に、私は手を抜く。
あれだけ離れたくないって言っておいて、今は放っておいてなんて…勝手だよね。
あの時は大海さんが憎かった。
だから大海さんに赤也くんを取られたくなかった。
私の中で大海さんは…悪者だったのに…。
『白井、大海に嫌がらせ受けてんだって?』
段々、分からなくなってきたの。
「え…?」
『牧原から聞いたぜ?大変だよなぁ』
「そんな…私は何も」
『いーっていーって、隠さなくても。俺達お前の味方だからな』
嫌がらせなんて受けてないし、大海さんは毎日ちゃんと仕事してた。
人一倍大海さんを意識してた私だから…分かるの。
なのに…
『部活サボるなんて、マネージャー失格だな』
みんな、勘違いしてた。
それでも大海さんは何も言い返さなかった。
『お前、裏方で仕事やらせてたんだって?』
『そうそう、自分だけ仕事やってる風に装ってよ』
『まぁでもそんなの、俺達は見抜いてたけどな』
『最悪だぜ』
私が、一言違うって言えば良かったの。
そうすれば大海さんの誤解は解けていた筈なのに…
言えなかった。
私に勇気が足りなかったから…。
『テメェの持って来たドリンクなんて飲めるかよ』
「――…!!」
『さっさと辞めちまえ』
今まで一緒に部活してきた相手に、平気でこんな事が出来るなんて…。
信じられなかった。
色眼鏡で大海さんの事を見てきたけど、本当は大海さんは…何も悪くないんだ。
『私が、悪いんだよ』
違う、違うの。
私が勇気を出せなかったから。
私が悪いの…。
あの時本当の事を言ってたら、大海さんが仲間を失う事なんて無かった。
大海さんから仲間を奪ったのは…私。
その日の私は、“罪悪感”しか無かった――。
『白井』
翌朝、私は仁王先輩から呼び出しを食らった。
私達はそのまま屋上へと移動する。
「あの、何でしょう…?」
『お前さん、本当は知っとるんじゃろ?』
「な、何を…ですか?」
『彩愛が何もしちょらんっちゅーこと』
亮子先輩が何をされたかは知らないけど、少なくとも私は何もされてない。
それは事実。
「仁王先輩は、どう思うんですか…?」
私より、大海さんを知っているアナタに聞きたい。
答えがどうであれ、私はそれを信じることにするから。
『俺は…』
仁王先輩が空を見上げる。
『彩愛の味方ぜよ?』
そして私の顔を見ると、不敵に笑った。
『真実がどうこうっちゅーより、彩愛を信じてる。それだけじゃ』
あ、
今…乙女の第六感が働いた。
この人…大海さんの事が好きなんだ――
「大変ですね」
『…ん?』
「大海さんモテるし…」
本人は知らないだろうけど、赤也くんって学年の中でも結構モテてるんだよ。
そんな赤也くんをも虜にするんだから…大海さんって凄い。
『どっからそうゆう話になったんかは分からんが…そうじゃな、彩愛は人に好かれるのぅ』
「赤也くんも…大海さんの事、好きって言ってたし…」
『赤也だけじゃなかよ。参謀も、幸村も…』
「
えっ…?幸村先輩って亮子先輩と付き合ってるんじゃ…」
『あぁ、そこら辺は触れんでええ』
って言われましても…気になるじゃないですか。
『彩愛、赤也、幸村、参謀、牧原…そして、俺とお前さんも』
「……」
『みんな、叶わん恋をしちょるんよ』
仁王先輩は悲しげに笑った。
叶わない恋、か。
恋愛って、こんなに難しかったっけ…?
私は広がる空の下で、ニヒルな笑顔を浮かべた。